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香港議会選の延期 民主主義損ねる愚行だ

2020/8/5

 9月に予定されていた香港の立法会(議会)選挙が1年先に延期されることになった。香港政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を理由にしているが、額面通りには受け取れない。

 中国が香港での反体制活動を取り締まる国家安全維持法(国安法)を一方的に制定、施行してから初めての選挙となるはずだった。

 香港市民の間では、強権的に介入を強める中国政府への反発が広がっている。選挙が実施されれば、民主派が勢力を伸ばす可能性が強いとみられていた。

 そうした事態を警戒した香港政府が、選挙を避けたとの見方が強い。恣意(しい)的な制度の運用は、選挙の公正さに疑義を生じさせる。民主主義の基盤を揺るがす愚行である。

 昨年11月の区議会選挙で圧勝した民主派は今回の議会選で、定数70議席の過半数である35議席以上の獲得を目指していた。

 立法会で審議する予算案を否決できれば、行政長官は議会の解散に追い込まれる可能性が出てくる。その後の選挙で民主派が過半数を獲得し、同じ予算案を再び否決すれば、行政長官は辞任しなければならなくなる。理屈の上では、合法的な「政権交代」が可能になる。

 民主派は6月に、立候補者を絞り込む予備選を実施した。想定の3倍以上を超える61万人が参加した。香港の頭越しに国安法を施行した中国政府への怒りや不満が強まっているのは間違いないだろう。

 それだけに民主派にとっては、勢力拡大を図り、国際社会に香港の民意をアピールする場を奪われた打撃は大きい。

 今回の延期について、民主派が「コロナ禍の政治利用」と反発を強めているのも無理はなかろう。国安法が6月末に施行されて以来、民主派の政治活動は厳しい制約を受けている。

 議会選への立候補を届け出ていた民主派のうち12人が延期決定前に、国安法への反対などを理由に立候補資格を取り消された。その数は4年前の前回選挙の6人から倍増している。

 香港政府は判断基準として、国安法への反対や海外の民主勢力との連携などを挙げるが、不透明で曖昧だ。政府予算案の否決を訴えても、資格取り消しの理由となる。

 これでは反体制的な言動は一切認めないと言っているに等しい。民主派つぶしの狙いは明らかだ。1年後に選挙が行われるまでには中国政府に批判的な勢力が一掃されてしまう恐れすらある。

 香港政府は国安法を施行する際、「慎重な運用」を表明していた。にもかかわらず香港独立を主張する旗を持っているだけで逮捕されたり、令状なしの家宅捜索を受けたり強引な取り締まりがまかり通っている。

 図書館では民主活動家らの著書の閲覧が禁止され、英国など海外に滞在する活動家ら6人が国安法違反容疑で指名手配された。言論・表現の自由が一気に奪われている。

 欧米諸国も市民が合法的に意思表示する機会として香港の議会選に注目していた。民主派に対する締め付けや議会選の延期に対する批判の高まりは避けられまい。日本を含む国際社会は外交手段を尽くし、香港政府を後押ししている中国の強硬路線に歯止めをかけるべきだ。

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