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安倍首相の退陣表明 負の政治遺産どうする

2020/8/29

 また突然の辞任である。安倍晋三首相がきのう開いた記者会見で明らかにした。再び持病が悪化したことから「国政に支障が出る事態は避けたい」と決断したという。

 日本は今、新型コロナウイルスへの対応など、政治が果たすべき課題が山積する。感染拡大の防止策と、経済回復策の両立は難題である。

 ▽前回は投げ出し

 首相もよく分かっているようだ。会見では、きのう午前中に今後のコロナ対策を取りまとめたこと、感染が減少傾向に転じたことなどを述べてから、辞任を口にした。道筋を付けたと強調し、政権を投げ出したという印象は避けたかったのだろう。

 というのは第1次政権の際も持病の悪化を理由に辞任している。唐突だったために混乱を招き、「政権投げ出し」と批判を浴びた。

 病気が再び悪化したとはいえ今回はコロナ禍のまっただ中である。「このタイミングしかない」と、辞任の時期について語ったが、どうだろうか。国のトップの辞任は政治や経済に与える衝撃と影響が極めて大きい。

 実際、突然の表明に与党内には驚きと動揺が広がっている。自民党は来週にも後継総裁の選出法を決める。早急に新内閣を発足させる必要がある。国政に空白を生じさせてはならない。

 安倍政権は第1次政権と合わせて通算の在任期間が憲政史上最長である。また今月24日には第2次政権での連続在職日数も歴代最長となっていた。

 第2次政権発足以降は、経済再生を最優先課題として、「アベノミクス」を推進した。大規模な金融緩和や経済対策を打ち出し、株価を2万円台に回復させた。雇用状況も改善させた。

 米国との同盟関係の強化にも力を入れた。特にトランプ大統領とは蜜月関係を築いている。

 ▽自ら「成果」強調

 そういった自らの「成果」をきのうの会見でも語っていた。しかし長期政権を振り返ると、「負」の側面を見逃すわけにはいかない。

 論戦を避けて数で押し切る手法で、国民間の分断を招いた。特定秘密保護法や集団的自衛権の限定的行使を容認する憲法解釈の転換、安全保障法制などである。恣意(しい)的な閣議決定も目立った。

 「政治とカネ」を巡る疑惑をはじめ閣僚の不祥事、政権の私物化、官僚の「忖度(そんたく)」といったモラルの崩壊を数多く引き起こしてきている。森友・加計学園問題、「桜を見る会」疑惑、公文書の改ざんや廃棄など、枚挙にいとまがない。

 疑惑や不祥事などが露呈するたびに、首相は「責任を痛感する」と神妙な面持ちで語りはしたものの、責任を取ることはなかった。

 これらのあしき政治手法や姿勢は、安倍1強の長期政権が作りだしたものだ。その中で、政治に対する国民の意識も鈍ってきた面があるかもしれない。新内閣には政治の刷新、悪弊の一掃が求められるだろう。国民もまた政治を見る目を改める必要がありそうだ。

 ▽道半ばの政策も

 「政治において重要なのは結果を出すこと」。首相はきのうも信条を語った。だが「私の手で成し遂げる」と強調した憲法改正は、議論が進んでいない。

 北朝鮮に「前提条件のない首脳会談」を呼び掛けた日本人拉致問題の解決や、「2島先行返還」にかじを切ったロシアとの北方領土の返還交渉でも結局、成果を上げられなかった。

 地方創生、一億総活躍社会、女性活躍、働き方改革など、内政でも多くのスローガンをぶち上げてきた。どれも道半ばで放り出すことになるため、首相は無念に違いない。

 コロナ対応では、突然の一斉休校要請やマスク配布が混乱を招いて批判された。内閣「不支持率」が高まっていた。

 主導してきた東京五輪・パラリンピックは来年夏に先延ばししたものの、コロナ禍で開催が危ぶまれる状況である。

 7年8カ月に及んだ長期政権が何をもたらし、この国をどう変えたか。検証が必要だ。 

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