コラム・連載・特集

【山口考】終幕安倍政権 <上> 郷土の誉れも 最長宰相、絶大な存在感

2020/9/9
安倍首相の通算在職最長を祝う県庁の横断幕の下でテープカットする首相の地元秘書(左)と村岡知事(中)、柳居議長(2019年12月2日)

安倍首相の通算在職最長を祝う県庁の横断幕の下でテープカットする首相の地元秘書(左)と村岡知事(中)、柳居議長(2019年12月2日)

 ▽「身内びいき」県外厳しく

 「祝歴代最長達成」。安倍晋三首相の連続在職日数が憲政史上最長となった8月24日、山口県庁玄関に記念の横断幕が掲げられた。村岡嗣政知事は「県民の皆さまとともに心からお祝い申し上げます」とたたえた。

 県は第1、2次政権発足時と通算在職日数の最長記録を更新した昨年11月にもお祝い行事をしている。前回は伊藤博文や桂太郎ら県出身の歴代首相7人と安倍首相を並べて紹介するパネル展を約300万円かけ開催。自民党県連幹部の柳居俊学県議会議長と同じく党員の村岡知事、安倍首相の地元秘書の3人がテープカットして祝った。

 山口が輩出した首相には戦後の岸信介、佐藤栄作の名前もあり、ともに安倍首相の祖父と大叔父。故郷に錦を飾った県庁での祝賀は自民党王国での安倍首相の絶大な存在感を浮かび上がらせた。

 ちなみに高校まで宇部市で過ごした旧民主党の菅直人元首相のことは展示会で触れられていない。

 ▽県内も1強盤石

 2012年に当時野党だった自民党を率いて政権を奪還した安倍首相。看板の経済政策「アベノミクス」のおかげか、世界的な景気拡大の流れと軌を一にしたのか、株価は右肩上がり。大企業の業績も軒並み過去最高を更新した。国政選挙では連戦連勝。格差拡大の批判もどこ吹く風と支持率は底堅かった。

 こうした実績に杉田水脈衆院議員(比例中国)は「後世の歴史が安倍政権の7年8カ月を必ず評価する。歴代総理より一歩も二歩も上を行く外交で日本が信頼される国家になった。病気を抱えながらあれだけのことをやられ涙が出そうだ」と絶賛。山口とゆかりがなく、性的少数者(LGBT)を巡る言動などで物議を醸すことも多い杉田氏が党県連入りしたのも、杉田氏を推す安倍首相の威光のおかげとみる関係者が多い。ことほど県政界でも「安倍一強」の態勢は盤石だった。

 お膝元の下関市議会の林透議長は「1次政権を投げ出したと批判され、地元の少人数の集いで『申し訳ない』と謝っていた姿が印象に残る。あの経験があったからこそ今がある」と振り返る。父晋太郎氏の時から応援する無職上河内重雄さん(83)も「経済を再生し、外交もあんなに頑張った総理はいない」と慰労する。

 ただ、地域にとって誉れの「おらが街」の宰相も政権が長期化する中で全国からは身内びいきと見られることが多くなる。地元支援者が多数招かれた首相主催の桜を見る会を巡っては多額の公費投入に「政権の私物化」と批判を浴びた。

 ▽国家築いた自負

 また、日露首脳会談の舞台となった長門湯本温泉の高級旅館「大谷山荘」での新年会が会費1人3千円だったことから「安すぎる」と話題に。市民オンブズマンやまぐちの広岡逸樹代表幹事は「3千円でできるわけがない。森友加計問題や桜を見る会と同じくお友達優遇」と批判。旅館関係者は「地元総理のために旅館も赤字覚悟で頑張っているはずだ」と推し量る。

 こうした批判について桜を見る会に参加した林議長は「総理は地元びいきにならないよう常に気にしていた」と説明。小熊坂孝司市議も「自費で行って何が悪い。地元優遇と言われるが悔しければ自分のところからも総理を出してみろという気持ちだ」と反論する。

 明治維新を成し遂げ国家の礎をつくった自負が強いとされる山口人にとって郷土の首相は特別な存在。だが政権末期に見舞われたコロナ禍では「アベノマスク」などの対応を巡り批判が相次いだ。歴代最長を更新した4日後に突然、退陣を表明した。

 権力の黄昏(たそがれ)を予兆していたかのように、くだんの歴代最長を祝う県の行事には「税金で政党を応援するのはおかしい」「私は安倍政権を支持していない」と県民たちから抗議の電話が158件届く。好意的な意見の21件を大きく上回る。県によると、昨年の行事ではそれほど反発の声はなかったという。

 横断幕は当初は10月9日まで設置する予定だったが、県は早めに外すことも検討している。批判が理由ではなく、予想外の退陣に合わせてだという。

    ◇

 第2次安倍政権は16日の新首相誕生をもって終幕する。山口から8人目の宰相として最も長く国のかじ取り役を担った安倍首相と地元の7年8カ月の一幕を振り返る。

【山口考】終幕安倍政権 
<上> 郷土の誉れも 最長宰相、絶大な存在感
<中> さらに進む一党支配 市長選、争うは自民同士
<下> 維新は成ったか 決める政治、言葉躍れど

【山口考・保守王国】
<1>自民にあらずんば 力を背景、実利がつなぐ
<2>国・県・市町の役人ネット 政策誘導、結び付き深く
<3>むかし急進、いま体制派 武力革命、逆転もたらす
<4>全国最多宰相の力学 歴史の勝者、軍をバック
<5>多弱野党の役回り まとまり欠き自民に利


【関連記事】

安倍首相、退陣表明 自民総裁選9月15日軸

首相退陣表明、戸惑うも結束確認 山口、自民行事で実弟岸氏

【安倍長期政権の功罪】「誠実さ」民意と隔たり 河井夫妻事件・閣僚辞任・桜・加計…説明責任果たさず辞任

【安倍長期政権の功罪】「アベノミクス」道半ば 円安が輸出型企業に恩恵

この記事の写真

  • 安倍首相の通算在職最長を祝う企画展の等身大パネルと並ぶ村岡知事(2019年12月2日)

上記の写真をクリックすると拡大して表示されます。

  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

 あなたにおすすめの記事

山口考の最新記事
一覧