【こちら編集局です】最期の日々に会えず悲痛 コロナ感染防止、病院で家族の面会制限
最愛の家族との最期の日々を共に過ごせなかった人たちがいる。新型コロナウイルス感染防止のため、病院での面会が制限されたからだ。「こんな形で別れを迎えるなんて。気持ちの整理ができません」。そんな悲痛な声が編集局に相次いで寄せられた。遺族には喪失感とともに、後悔や苦しみがのしかかる。コロナ禍のみとりの在り方を考えたい。
▽専門家「検査拡充で機会増も」
声を寄せてくれた広島県海田町の渡部君子さん(62)を訪ねた。5月に72歳で亡くなった夫健司さんの仏前で送信済みのメールを見せてくれた。「愛する父さんへ 今まで、ありがとうね」。父の日の6月21日、健司さんに送ったメールだった。「今も夫の携帯電話を解約できないんです」。君子さんは、いとおしそうに形見の携帯電話を両手で包み込んだ。
健司さんは4月末ごろから微熱が続いた。5月6日に救急搬送され、緊急入院の9日後に亡くなった。肝臓の疾患だった。
入院後、君子さんが健司さんと会えたのは亡くなった日を含めて2日間。それぞれ5分間だけ。関西に住む長女も駆け付けたが、県外在住のため病院に入ることさえできなかった。
結婚して30年余り。君子さんは幼い頃に親を亡くし、児童養護施設で育った。「夫と子どもは唯一の家族で、宝物」と君子さん。「ぬくもりのあるうちに会いたかった」と漏らした長女の言葉が忘れられない。
広島市西区のパート藤沢文恵さん(54)も、4月に突然亡くなった母の死を受け止めきれないでいる。83歳だった母の行旨(ゆきむね)アヤメさんの手を握ることができたのは、死の間際だった。
行旨さんは4月下旬、肝臓の手術を受けるため入院。手術翌日、夜中にベッドから転落し、ひどい打撲や骨折を負った。意識障害の一種「せん妄」を起こしたとみられる。「家との区別が付かなくなって、隣に寝ている父を捜したのでしょうか」と藤沢さん。持病のぜんそくも発症し、入院6日目に亡くなった。
面会制限が厳しくなく、見舞うことができた3月の短期入院時、せん妄とみられる症状は出なかったという。「以前と同じように見舞えていたら、母は生きているかも。その思いを拭いきれません」
各病院では今、オンライン面会が広がる。面会制限解除の見通しが立たない中では最も有効な手段だろう。必要な無線LANや端末の整備の補助制度を新設する自治体も出てきた。
ただ、インターネット環境を整備するだけで、患者と家族が納得できる面会時間を設けられるかどうかは不透明だ。
ネックの一つは病院側の人手確保。見舞いに来た家族は食事の介助など患者の世話を手伝うこともあり、看護師たち病院スタッフを支えていた側面があった。面会制限により、全ての仕事をスタッフが担う。容体を家族に連絡する機会も増えた。オンライン面会をするにも、端末の準備やサポートが必要になる。
家族と会えず、認知症や気力の低下が進む患者もいる。「面会させてあげたい。でも今の仕事量では、とても追い付かない」。広島市の40代の看護師女性はジレンマを打ち明ける。
みとりの時間をコロナに奪われ、家族だけでなく医療現場も悩み、苦しんでいる。広島県緩和ケア推進監の本家好文医師は、感染の有無を調べる迅速な検査態勢を各病院で整えることができれば、陰性の家族が面会できる機会を増やせると指摘する。「どうすれば患者と家族が最期の時間をよりよい形で過ごすことができるか。感染防止との両立を、社会全体で考える必要がある」と訴える。(小林可奈)
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