コラム・連載・特集

≪新型コロナ≫ワクチン開発 安全最優先を忘れるな

2020/9/16

 新型コロナウイルスのワクチンについて、政府は来年前半までに全ての国民に提供できる量の確保を目指している。費用の自己負担を全員無料とする案も検討中という。1年延期となった東京五輪・パラリンピック開催への地ならしなのだろう。

 とはいえ未知のウイルスに対するワクチンの開発・普及には多くのハードルがある。当たり前だが、安全性を第一にすべきことを忘れてはならない。各国の政治家が早期導入に前のめりな発言を繰り返しているだけに注意を怠るわけにはいくまい。

 ワクチンは人類の公共財であるとの認識を広げ、各国が協力し開発を加速する必要がある。世界中に行き渡らせるため巨額の資金が要るからといって、貧しい人が接種できないことがあってはならない。発展途上国を含めて全ての人々が受けられるよう十分な準備が求められる。

 幸い、ワクチン開発に各国が共同出資・購入する枠組み「COVAX(コバックス)」が設立されている。約200億円の拠出金を予算計上した日本を含め、170を超す国・地域が参加を表明したという。経済力の乏しい発展途上国なども含め、世界的な普及に道が開けたと言えよう。日本としても積極的に後押ししなければならない。

 ワクチン開発は世界中で進められている。世界保健機関(WHO)によると、約170の計画があり、うち30は人に投与して有効性や安全性を調べる臨床試験(治験)に達している。

 中でもロシアはワクチン「スプートニクV」を世界で初めて国家として承認した。ただ3段階ある治験のうち最終段階を終えていないだけに不安が残る。政治家がせかすため必要な手続きがおろそかにされたのだとしたら、看過できない。

 プーチン大統領に限らない。米国のトランプ大統領も11月の大統領選を視野に実用化を急がせている。早く開発できたからと言って、他国に言うことを聞かせる「外交カード」のように使うことも許されない。

 こうした政治的な思惑をけん制する動きも起きている。欧米の九つの製薬会社が接種での安全性と健康を最優先して取り組むとの共同声明を出した。治験で安全性と有効性を確認できた後に当局の承認を求めるそうだ。政治家の思惑に左右されにくくなろう。逆に言うと、各社が連携して対抗しなければ科学的手続きでさえ軽んじられるのではないか。懸念される。

 9社の一つで英国大手のアストラゼネカは、被験者に副作用が疑われる深刻な症状が起きたため各国での治験を一時中断した。世界で最も開発が先行していたワクチンの一つとされ、日本でも8月から治験を始めたばかりだった。開発の難しさを改めて印象付けたと言えよう。

 英当局により安全が確認されたとして、英国での治験は再開した。立ち止まる勇気を示したのは評価できる。しかしどんな症状がなぜ出たか、再開可能と判断した根拠など詳しい情報を明らかにする必要がある。

 政府がいくらせかしても、思惑通りのスピードでワクチンが開発できるわけではない。過度な期待を国民に振りまくことにもなりかねない。十分な資金やスタッフを集めるなど、環境整備と安全性確保にこそ、政府は集中すべきである。 

  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

 あなたにおすすめの記事

社説の最新記事
一覧