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おとぎ話みたいな山火事の話

2020/9/16

 湖のほとりに立つ森のホテルが夏のある日、窮地に陥る。山火事の炎と煙が四方八方から迫ったのだ。死中に活を求め、湖の中へと急いだ人々は不思議な光景を見る。獣も森からぞろぞろ逃れてきたのである▲ヘラジカやクマも現れ、水の中へ。困ったときは相身互い、シカの隣には天敵のオオカミがたたずむ。火の手が鎮まると、人も獣も何もなかったように岸に上がったという。絵本「森のおくから」は、カナダで100年ほど前にあった実話を伝える▲隣国米国の西海岸でいま、史上最悪規模の山火事が広がる。既に約2万平方キロの森が炎に包まれたというから、四国全体の面積に近い▲その火の粉が、熱を帯びる米大統領選に飛び火している。以前から「気候変動」説をいぶかる現職は、森林管理の失敗が原因だと言い張る。相手は相手で「分からず屋」とあげつらう。角(つの)や爪はいったん隠す、カナダの森のような世界からは程遠い▲西海岸では近年、気温上昇や渇水が目立ち、立ち枯れの山は薪も同然だったと指摘する専門家もいる。惨事を目の当たりにしてもなお科学の警告に耳を傾けようとしない―。米国に巣くう分断と対立は、謙虚な心まで曇らせかねない。

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