
菅氏来援の直前「裏仕事」 克行氏、現金ばらまき【決別 金権政治】<第1部・巨額の買収事件>(1)
2019年7月の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件が、政治不信を巻き起こしている。元法相の河井克行(57)=衆院広島3区=が妻の案里(47)=参院広島=を当選させるため、100人に計2901万円を配ったとして公選法違反罪に問われた前代未聞の事態だ。しかも事件の舞台となった広島県ではかつて、知事選を巡る買収疑惑が表面化し、再発防止へ条例まで制定したが、悪弊は繰り返された。今度こそ「金権政治」と決別しなければならない。まずは、今回の事件の実態を探る。
「臨時国会で国会議員としての責務を果たす必要がある。出席したい」。安倍晋三(66)の後任を決める自民党総裁選の本命が菅義偉(71)に定まりつつあった今月9日、東京拘置所に勾留中の克行は自ら書面を作り、東京地裁に4度目となる保釈請求をした。菅を新首相に選出する臨時国会に出席したいと、弁護人に直訴してきたという。
克行にとって、菅は1996年に初当選した「当選同期」。党内の無派閥の中堅・若手議員を集め、菅を支える「向日葵(ひまわり)会」を主宰する仲だ。ただ、地裁は克行の保釈請求を却下し、国会出席はならなかった。
▽出世の階段上る
「克行はじだんだを踏んでいるのではないか。菅が首相になったら、官房副長官くらいの目はあったからな」。ある捜査関係者は克行の胸中を推し量る。実際、一連の疑惑が表面化するまで克行は出世の階段を駆け上がっていた。
参院選の公示まで2週間を切っていた19年6月22日午後、克行は広島市中区の繁華街の交差点にいた。官房長官だった菅が街宣車の車上から応援演説し、横で手を振る案里への支援を呼び掛けていた。新元号を発表し「令和おじさん」として存在感が高まる菅の来援で、熱気に包まれた。
一方で克行はこの街頭演説の数時間前、「裏仕事」にいそしんでいた。午前10時半ごろ、同市安佐北区の支援者の男性宅を訪れると、あいさつもそこそこに居間へ。「またお世話になります」と案里のポスターなどを手渡し、去り際に封筒を畳の上に置いた。5万円が入っていた。男性は返そうとしたが、「これまでお世話になっていますから」と取り合わず、車で去った。区内の別の支援者方でも5万円を渡した。
秘書らによると選挙戦を仕切ったのは克行だった。表舞台では菅や安倍、自民党幹事長の二階俊博(81)ら政権幹部が続々と応援に入り、政権との近さをアピール。党本部から1億5千万円の支援も受けていた。水面下では地方議員や後援会員に現金を提供。拒む人には「安倍さんから」「二階さんからです」と言って現金を渡したこともあった。
同年7月21日の投開票日。案里は、党広島県連の主流派が推した現職の溝手顕正(78)を抑えて初当選。克行は同9月の内閣改造で法相として初入閣した。
▽「おごり」の声も
さらなる高みへ歩み始めたが、翌10月末、案里陣営が車上運動員に法定以上の報酬を払った疑惑が報じられ、克行は法相を辞任。その後、検察が捜査に着手した。巨額の買収容疑が浮かび、克行と案里は今年6月に逮捕された。8月に公判が始まり、2人は無罪を主張。克行は臨時国会の前日の15日、6人の弁護人全員を解任し公判は中断した。
国会議員が自ら現金をばらまいた前例のない事件。克行をよく知る地元議員は「普段から政権との近さを鼻にかけとった。俺は逮捕されんと、おごりもあったんじゃろ」と突き放した。(敬称・呼称略)
<クリック>参院選広島選挙区 2議席が改選され、通常は自民党と野党が議席を分け合う無風区。しかし昨年7月の参院選では、「2議席独占」を掲げる自民党本部が党広島県連の反対を押し切り、県議だった河井案里を擁立。県連主流派が推す現職の溝手顕正と、野党系の無所属現職の森本真治との激戦となった。自民党本部は溝手分の10倍の1億5千万円を案里と克行側に提供するなど全面支援。森本と案里が当選し、6選を目指した溝手が落選した。
<第1部・巨額の買収事件>
(1)菅氏来援の直前「裏仕事」 克行氏、現金ばらまき
(2)1日で7人に現金 分裂選挙、にじむ焦り
(3)地盤なき地で躍起 「家内頼む」個室授受
(4)統一選でばらまき 「陣中見舞い」「当選祝い」
(5)領収書なき「裏金」 選挙区内は以前から
(6)現金、初当選からか 過去に落選「強い恐怖」
(7)公設秘書2人が加担 「好きなん買いんさい」
(8)案里被告、追及する立場逆転 説明責任を自身も回避
<第2部・被買収者>
(1)広島県議会、根深い「カネ」 奥原元議長、再び渦中
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