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決別 金権政治

1日で7人に現金 分裂選挙、にじむ焦り【決別 金権政治】<第1部・巨額の買収事件>(2)

2020/9/26 23:28
通常国会閉会日の6月17日に衆院本会議へ出席する克行。翌18日に逮捕された

通常国会閉会日の6月17日に衆院本会議へ出席する克行。翌18日に逮捕された

 忙しい一日は東京から始まった。河井案里(47)=参院広島=が初当選を狙う参院選が翌月に迫った2019年6月1日朝。前の晩、首相公邸での晩さん会に参加した夫の克行(57)=衆院広島3区=は羽田空港からの早朝便に乗り込み、広島空港へ飛んだ。

 広島空港に着くと広島市佐伯区へ向かい、ベテラン市議の事務所を1人で訪ねた。元議長の重鎮、自民党市議の藤田博之(82)が待っていた。

 ▽「当選祝いです」

 「遅くなりましたが、当選祝いです」。濃紺のスーツ姿の克行はそう言うと、応対した藤田に白い封筒を差し向けた。中には現金20万円。同年4月の市議選から、2カ月がたとうとしていた。

 藤田は封筒を受け取る一方で、こんな言葉を口にした。「自民党県連は溝手さんで走りよるんじゃけ支援できんよ」。案里への後押しを求める克行の意思を察し、突き放すことも忘れなかった。

 参院選で2議席が改選される広島選挙区では元々、自民党広島県連が推す現職の溝手顕正(78)が6選を目指していたが、党本部が「2議席独占」を掲げ、県議だった案里を擁立。野党系の現職を含めた3人による激戦が見込まれていた。自民党で独占をとの掛け声とは裏腹に、県連幹部からは「案里には1票もやらん」との声が漏れるなど、自民党は分裂選挙に陥っていた。

 藤田の事務所を10分足らずで去った克行は、その足で隣区の西区選出のベテラン県議、砂原克規(67)の事務所へ。30万円を入れた封筒を手渡した。昼前には約50キロ離れた安芸太田町であった神楽団の競演大会にも来賓として顔を出した。

 午後も行脚は続く。移動中も地元回りの日程調整に余念がなかった。克行が、事務所のスタッフと交わした無料通信アプリLINE(ライン)のメッセージ画面からは焦りがにじむ。

 スタッフ「元県議との面会は難しいと思われます」

 克行「えっー、何とか」

 スタッフ「移動時間だけでもかなりギリギリとなっております」

 克行「うー」

 ▽広島3区外にも

 午後から訪ねた市議は5人。自身の選挙区である衆院広島3区内だけでなく、安芸区選出の市議、沖宗正明(69)ら同3区外まで足を延ばし、20万円ずつ配った。案里の選挙はがきと一緒に現金を渡された沖宗は「選挙応援を求める意味と受け取った」と振り返る。

 克行はこの日だけで県議、市議計7人に計150万円を配り歩いた。いずれも同年春の統一地方選前後に続く、2度目の現金提供だった。検察当局は、選挙情勢が厳しいと踏んだ克行が「ばらまき」に走ったと見立てる。ある検察幹部は指摘する。「それなりに考えて実弾を撃ち込んでいる。最初に1回、公示前に『中押し』でもう1回だ」(敬称・呼称略)

<第1部・巨額の買収事件>
(1)菅氏来援の直前「裏仕事」 克行氏、現金ばらまき
(2)1日で7人に現金 分裂選挙、にじむ焦り
(3)地盤なき地で躍起 「家内頼む」個室授受
(4)統一選でばらまき 「陣中見舞い」「当選祝い」
(5)領収書なき「裏金」 選挙区内は以前から
(6)現金、初当選からか 過去に落選「強い恐怖」
(7)公設秘書2人が加担 「好きなん買いんさい」
(8)案里被告、追及する立場逆転 説明責任を自身も回避

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