コラム・連載・特集

決別 金権政治

地盤なき地で躍起 「家内頼む」個室授受 【決別 金権政治】<第1部・巨額の買収事件>(3)

2020/9/27 23:00
中国料理店で個室に呼ばれた状況を図に書いて説明する元地方議員

中国料理店で個室に呼ばれた状況を図に書いて説明する元地方議員

 福山市内の中国料理店の広めの個室で、地元の元広島県議や建設会社の男性社長たち4人が談笑していた。2019年6月8日夜。約1カ月後に始まる参院選の広島選挙区で、初当選を目指す河井案里(47)の支援を話し合っていた。

 初対面の人もいたが、会合は和やかに進んだ。名刺がなければ選挙区内を回るのに具合が悪かろうと、4人で後援会の役員の肩書を割り振った。事務所は建設会社の男性社長が段取りをすることになった。

 話し合いの終盤。案里の夫、克行(57)=衆院広島3区=が駆け付け、あいさつした。「県東部は特に厳しい。力を貸してほしい」

 ▽元県議らを頼る

 広島選挙区は2議席が改選される。通例は与野党が議席を分け合う「無風区」だが、自民党本部が議席独占を掲げて案里を擁立。同党現職溝手顕正(78)と野党系の現職森本真治(47)を含めた全国屈指の激戦区となった。自民党県連は溝手を支援する方針で、克行は危機感を募らせていた。

 元三原市長の溝手にとって県東部の福山市や周辺の支持基盤は厚い。一方、河井夫妻は広島市を拠点とする。「集会を開くわけでもなく、入り込む余地はなかった」と福山市議。人口46万人で県内第2位の福山市でどう浸透するのか。夫妻が頼ったのは県議時代に案里が行動を共にした元県議や男性社長たち4人だった。

 あいさつを終えた克行は廊下を挟んだ個室に入り、1人ずつ呼び込んだ。そのうちの1人、元地方議員とは10分ほど話し、企業回りでつかんだ感触などを聞いた。部屋を出ようとする元地方議員に「家内をよろしく頼む」と30万円が入った封筒を渡した。

 数日後、案里陣営は福山市内の県道交差点近くのビルに事務所を構えた。「溝手先生(の事務所)より目立つ場所へ」。克行の指示だった。

 ▽党本部から支援

 自民党本部は、出遅れもあった案里を重点的に支援。公示前は前首相の安倍晋三の秘書が福山市の企業を回り、公示後は官房長官だった菅義偉や党幹事長の二階俊博が駆け付けた。

 投開票日の7月21日。案里は福山市で4万7599票を獲得し、溝手を8421票上回った。当選確実の一報に沸く事務所には、6月に中国料理店で克行と向き合った4人もいた。リーダー的存在だった元県議は高揚感に包まれ「戦艦に漁船で挑むような戦いだった」と総括。「特別大きな組織もない中で右往左往したが、草の根で支持を訴えてきた」と振り返った。

 今年8月25日、東京地裁で河井夫妻の初公判が開かれ、検察側は「被買収者」の100人の名前を読み上げた。あの4人のうち3人が含まれ、現金授受の日付は中国料理店で会合を開いた6月8日と記されていた。元地方議員は取材に授受を認めた一方、元県議は現金受領を否定。事務所の責任者を務めた男性社長は弁護士を通じて「ノーコメント」を貫く。(敬称・呼称略)

<第1部・巨額の買収事件>
(1)菅氏来援の直前「裏仕事」 克行氏、現金ばらまき
(2)1日で7人に現金 分裂選挙、にじむ焦り
(3)地盤なき地で躍起 「家内頼む」個室授受
(4)統一選でばらまき 「陣中見舞い」「当選祝い」
(5)領収書なき「裏金」 選挙区内は以前から
(6)現金、初当選からか 過去に落選「強い恐怖」
(7)公設秘書2人が加担 「好きなん買いんさい」
(8)案里被告、追及する立場逆転 説明責任を自身も回避

【関連記事】
特集 河井夫妻買収事件公判

この記事の写真

上記の写真をクリックすると拡大して表示されます。

  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

決別 金権政治の最新記事
一覧

  •  2019年夏の参院選で河井克行、案里夫妻が100人に計2901万円を配ったとされる買収事件では、選挙に絡んだお金のやり取りが浮き彫りとなりました。令和の時代も変わらない「金権選挙」。皆さんの地域でも耳にしたこと、目にしたことはありませんか。体験、情報、意見をぜひお寄せください。(中国新聞「決別 金権政治」取材班)

  • LINE公式アカウント

    LINE友だち登録またはQRコードから友だちになってトークをしてください

    専用フォーム

    こちらから投稿ください
  • 郵送

    〒730-8677
    広島市中区土橋町7-1
    中国新聞編集局
    「決別 金権政治」取材班

    ファクス

    中国新聞編集局
    「決別 金権政治」取材班
    082-236-2321

 あなたにおすすめの記事