コラム・連載・特集

コロナ禍と自殺対策 孤立防ぎ安全網強化を

2020/9/29

 国内の自殺者が増加傾向にある。警察庁の暫定値によると、今年8月の自殺者数は1854人に上った。前年の同じ時期より251人増えた。

 長引くコロナ禍で、感染への恐怖や制限の多い日常にストレスを感じる人は多い。雇用環境は悪化し、将来への不安を抱える人も増えている。自殺者の増加はかねて懸念されてきた。

 収束が見えない中、失業などで困窮する人はさらに増える恐れがある。人との接触を減らす新しい生活様式の影響で、孤立を深めるケースもあろう。今まさに支えが必要な人の命を守れるようセーフティーネット(安全網)を強化する必要がある。

 2019年までの全国の自殺者は10年連続で減少。今年に入ってからも1〜6月の自殺者数は前年同期に比べて減っていた。しかし7月には増加に転じ、8月には最多になった。

 厚生労働省は先頃「生きづらさを感じている方々へ」と題し呼び掛けをホームページに掲載した。「新型コロナウイルス感染症の影響もあって、今後の生活について不安を感じておられる方も多いのではないか」と悩みを抱え込まぬよう身近な人や公的機関へ相談を促している。

 同省が明らかにした20年版の自殺対策白書の概要では、中高年の自殺の原因や動機を分析している。それによれば、「健康問題」に次いで「経済・生活問題」が多い。新型コロナの感染の広がりが、自殺者の増加に影響を及ぼしているのだろう。

 コロナ禍に関連する解雇や雇い止めも6万人を超えた。5万人に達した8月末から20日余りで1万人以上増え、増加のペースが速まっているという。

 収入減や失業で困窮した人に家賃などを補助する給付金制度はあるものの、要件の厳しさや手続きの煩雑さなど課題も指摘される。苦境にある人たちが絶望したり生きるのを諦めたりしてしまわぬよう、アクセスしやすい生活支援策の拡充が要る。

 女性の増加も気掛かりだ。コロナの影響が深刻な対面サービス業や観光業などで働く人は、いずれも女性が6割前後を占める。雇用の調整弁にされやすい非正規の立場の人も多い。負の影響を女性がより強く受けている懸念が拭えない。

 外出自粛などで家族の在宅時間が増え、家事などの負担や家庭内暴力の増加も指摘される。家庭で追い詰められることのないよう、目配りも必要だ。

 生活費や学費をまかなうアルバイトを絶たれた学生も困窮している。オンライン授業なども続き、孤立しているかもしれない。コロナの影響が長期化すれば抑圧感はさらに深まる。

 コロナ禍との関連性は不明だが、芸能人の自殺も相次いでいる。不安を抱える人が多い現状で、影響が心配される。

 それだけに心身の不調を気軽に相談できる環境を整えておく必要がある。直接会えなくても電話やネットで家族や友人らが声を掛け合う―。しんどいと感じている人の小さな変化を周囲が見逃さないことが大切だ。

 支援する側にもコロナ禍で活動が制限されたり、人手の確保が難しくなったりする課題が生じている。政府は、自治体や民間団体による相談・支援活動が滞ることのないよう、資金面を含めて、しっかりとサポートする必要がある。 

  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

 あなたにおすすめの記事

社説の最新記事
一覧