
領収書なき「裏金」 選挙区内は以前から 【決別 金権政治】<第1部・巨額の買収事件>(5)
「政権中枢にあられた衆院議員自らの突如のアプローチに、瞬時にあらゆるリスクを想定してしまい、それをはね返すことができなかったことは忸怩(じくじ)たる思いでいっぱいです」―。
2019年7月の参院選広島選挙区の大規模買収事件で公選法違反罪に問われた河井克行(57)=衆院広島3区=と妻案里(47)=参院広島=の初公判翌日の8月26日、広島市議、豊島岩白(47)=西区=のフェイスブックには、克行から現金を受け取ってしまった行為を恥じ入る思いが書きつづってあった。
▽発行「拒まれた」
検察によると、豊島は参院選前の3月末と6月初旬に計50万円を受け取った。現在4期目。克行の選挙区外の市議でもあり、関係は薄いが、いずれも克行が事務所にやって来て、帰り際に「これ」と渡された。豊島は「領収書を発行させてください」と言ったが、「いいから」と取り合ってもらえなかったという。
政治家や政治団体の活動を国民が監視できるようにするため、政治資金規正法は政治団体に収支報告書の提出を義務付けている。政治家間の寄付の場合も、受け取る側が領収書を発行し、双方が収支報告書に記す必要がある。
起訴状によると、克行は案里と共謀するなどして100人に計2901万円を配ったとされ、そのうち40人が首長や地方議員ら広島県内の政治家だった。弁護側は「広島の将来を担うと目される地元政治家らに寄付した」と主張するが、検察側は「領収書の作成や交付を求めたことはなかった」と指摘。買収のための裏金だったとする。
克行は一方で、自身の選挙区内の議員に対し、買収事件の以前から裏金を提供していた。現在3期目の広島市議、石橋竜史(48)=安佐南区。昨年5月に克行から30万円を受け取ったとして今年6月に記者会見をした際、「基本的に年2回、白い封筒で1回につき10万円をもらっていた」と暴露した。
▽「氷代、もち代」
石橋によると、初当選の翌年の12年か13年に克行の事務所に呼ばれ、現金を渡された。「収支報告書に記入しないといけない」と言うと、克行は「記載する義務はないから」と、かばんにねじ込んだ。政界の慣習と言われ、「夏の氷代、冬のもち代」としてやりとりが続いた。何度も断ったが、地元選出の国会議員を敵に回したくないという心理が働き、断り切れなかったと、石橋は強調する。
石橋は過去3回の市議選に無所属で立ち、2回はトップ当選だった。克行の裏金提供の狙いを「自分をコントロールしたい、子飼いのような状態にしたいという思いがあったのではないか」と推測する。
これまでに受け取った「氷代、もち代」は収支報告書に記載しておらず、専門家は双方とも政治資金規正法違反(不記載)に当たる可能性があると指摘する。同法が求める、政治の透明性を図るという意識はそこにはなかった。(敬称・呼称略)
<第1部・巨額の買収事件>
(1)菅氏来援の直前「裏仕事」 克行氏、現金ばらまき
(2)1日で7人に現金 分裂選挙、にじむ焦り
(3)地盤なき地で躍起 「家内頼む」個室授受
(4)統一選でばらまき 「陣中見舞い」「当選祝い」
(5)領収書なき「裏金」 選挙区内は以前から
(6)現金、初当選からか 過去に落選「強い恐怖」
(7)公設秘書2人が加担 「好きなん買いんさい」
(8)案里被告、追及する立場逆転 説明責任を自身も回避
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