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決別 金権政治

公設秘書2人が加担 「好きなん買いんさい」 【決別 金権政治】<第1部・巨額の買収事件>(7)

2020/10/2 23:06
7月に閉鎖された克行の事務所。案里の看板も置かれていた(7月11日、広島市安佐南区)

7月に閉鎖された克行の事務所。案里の看板も置かれていた(7月11日、広島市安佐南区)

 2019年6月上旬、河井克行(57)=衆院広島3区=の後援会員の女性は困惑していた。数日前、広島市安佐南区の自宅を訪ねてきた克行から現金5万円入りの封筒を渡されたからだ。長年、選挙活動を手伝ってきたが、現金を渡されたのは初めてだった。

 たまらず、克行の妻案里(47)=参院広島=の公設秘書に電話をかけ「克行さんがお金を置いて行っちゃったんよ。どうしようかね」と相談した。秘書は「いいんじゃない。好きなもん買いんさいや」と、軽い口調で返してきた。

 翌7月の参院選では、後援会のはがきの整理など事務作業を手伝った。案里は当選し、県議から参院議員への転身を果たした。女性は2カ月後、保管していた5万円を使い、東京へ遊びに行った。当選祝いで案里にも会うつもりだったが、当日は出張中で会えなかった。5万円は旅費や食事代、お土産代に消えた。

 ▽案里熱唱の傍ら

 ところが今年4月、検察庁から突然の呼び出しがあり、あの5万円を受け取ったことで自分が「被買収者」の立場にあると知らされた。「善意で手伝っていたのに…。受け取った私が悪いが、電話で秘書に相談した時に『返して』と言ってくれていたら」との思いも頭から離れない。

 この秘書は、女性から相談の電話を受けた約1週間後の19年6月16日、案里とともに江田島市内をあいさつ回りに訪れた。案里は、同市議の胡子雅信(50)から紹介されたカラオケ大会に飛び入りで参加。おはこの演歌を熱唱した。その傍らで秘書は、会場にいた胡子に現金10万円を手渡した。

 「買収」への加担は他の秘書にも及ぶ。克行の公設秘書も同月9日、安佐北区の支援者の女性宅を克行に続いて訪れ、克行の指示で5万円を渡した。女性は「特に言葉はなかった」と述懐する。

 克行と案里が公選法違反罪に問われている大規模買収事件の公判で、検察側はこの秘書2人が現金配布に関与していたと指摘。「事務所ぐるみ」の構図が浮かび上がった。一方で検察当局は2人を夫妻との共犯として立件はしていない。関係者によると、いずれも自発的な意思での行為でなかった点などを考慮したとみられる。

 ▽申し訳ない思い

 参院選から1年が経過した今年7月、安佐南区にあった克行の事務所は閉鎖された。片付けに追われていた公設秘書は「支えてくれた地元の方に申し訳ない気持ちでいっぱい」と漏らした。中区にあった案里の事務所も9月下旬に閉鎖された。

 2人を国会に送り出した地元に、政治活動の拠点はなくなった。一方で、克行も案里も公判で勾留生活が続く中、国会議員を辞職してはいない。国からは、103万5200円の歳費と100万円の文書通信交通滞在費が2人に毎月支払われ、公設秘書の給与も毎月支給される。その原資は国民が払った税金である。(敬称・呼称略)

<第1部・巨額の買収事件>
(1)菅氏来援の直前「裏仕事」 克行氏、現金ばらまき
(2)1日で7人に現金 分裂選挙、にじむ焦り
(3)地盤なき地で躍起 「家内頼む」個室授受
(4)統一選でばらまき 「陣中見舞い」「当選祝い」
(5)領収書なき「裏金」 選挙区内は以前から
(6)現金、初当選からか 過去に落選「強い恐怖」
(7)公設秘書2人が加担 「好きなん買いんさい」
(8)案里被告、追及する立場逆転 説明責任を自身も回避

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特集 河井夫妻買収事件公判

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  •  2019年夏の参院選で河井克行、案里夫妻が100人に計2901万円を配ったとされる買収事件では、選挙に絡んだお金のやり取りが浮き彫りとなりました。令和の時代も変わらない「金権選挙」。皆さんの地域でも耳にしたこと、目にしたことはありませんか。体験、情報、意見をぜひお寄せください。(中国新聞「決別 金権政治」取材班)

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