コロナ禍と地価 変調の背景、注視したい
回復を続けていた地価に急ブレーキがかかった。新型コロナウイルスの感染拡大のためだ。
地価は遅効性の経済指標とされる。下落が続けば、企業や投資家の心理が冷え込み、地域経済への打撃も小さくない。政府や自治体などは今後の動向をしっかり注視する必要がある。
国土交通省がまとめた今年7月1日時点の基準地価は全用途の全国平均が前年に比べて0・6%減と3年ぶりに下落に転じた。商業地の全国平均も5年ぶりに下落し、住宅地もマイナス幅が拡大した。
今年1月1日時点で調べた公示地価では、東京、大阪、名古屋の三大都市圏だけでなく、地方圏でもバブル崩壊以来28年ぶりに上昇に転じた。すそ野の広がりは鮮明だったのに、わずか半年余りで様相が一変した。
とりわけ景気停滞の影響を受けやすい都市部の商業地の苦戦が目立つ。
訪日観光客が激減してホテルや商業施設などの需要が大きく落ち込んだ。休業要請や外出自粛で、事業者の景況感も一気に冷え込んだ。地価上昇を支えていたエンジンを失った形だ。
比較的活気のある札幌、仙台、広島、福岡の地方4市では、伸び率は鈍化したものの、調査地点の9割でプラスを維持した。駅周辺や中心部で進む再開発需要が下支えし、何とか大崩れを回避したのだろう。
国交省は「いったん回復傾向が立ち止まった状態。多くの地域では様子見の小幅な変動だ」と分析している。
緩やかな景気回復と低金利を追い風に、回復基調をたどっていた地価が「潮目」を迎えているのは間違いない。
当面、景況感の回復は見込めない。長期化するコロナの影響がどう地価に反映されるのか慎重に見極めなければならない。
オフィス需要に陰りが出ているのも気掛かりだ。東京都心のオフィス空室率が上昇に転じ、賃料も下落傾向にある。テレワークの拡大や売り上げの落ち込みによって、オフィスを縮小するなど見直しの動きが広がっているためだろう。
総務省の人口移動報告によると、東京都は今年7、8月と2カ月連続で転出者が転入者を上回る「転出超過」となった。
本社機能や一部の業務を地方に移す企業が増え、郊外の暮らしや地方移住への関心も高まっている。コロナ禍がもたらす社会生活や経済の変化が、土地の利用にも影響を与えるのは確実だろう。
政府は、首都圏への一極集中を是正し地方分散を進める観点からも、テレワーク需要やオフィス移転の受け皿の整備を政策面から後押しすべきだ。
低迷する地方にとっても、好機と受け止める必要がある。移住者の増加は、地域の新たな活力につながる。「脱東京」を希望する人が安心して移り住める環境を整え、地方回帰の流れを確かなものにしたい。
「3密」を避ける働く環境とともに、医療、教育などの分野のデジタル化を急ぎ、生活環境の格差縮小に取り組むことが欠かせない。
近年の地価上昇は、訪日観光客の増加などに支えられてきたが、「観光公害」などの問題も指摘される。コロナ禍を、快適で暮らしやすい地域づくりの在り方を考える契機にしたい。
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