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学術会議への圧力 首相の説明なってない

2020/10/9 7:02

 その訳を「総合的、俯瞰(ふかん)的な活動を求める観点から今回の任命を判断した」と菅義偉首相は言う。日本学術会議が推薦した会員候補105人から6人だけ任命を拒否した問題である。

 「総合的」や「俯瞰的」とは一体、何のことだろう。理由の説明としては、なってない。任命した99人との違いは、どこにあるのだろう。

 首相は「そのまま任命する前例を踏襲していいのかを考えてきた」とも口にした。学術会議に何か、お眼鏡にかなわない節があったようだ。

 いつから、どのような問題意識を持ち、今回の判断に至ったのかを率直に語らぬ限り、この問題は収まるまい。

 首相説明の翌日になって、政府側は2018年に作成した内部文書を公表した。〈首相は人事を通じて一定の監督権を行使することができる〉と明記してある。だから推薦リストのまま任命する義務は首相にはない―とでも言いたいのだろうか。

 しかし、日本学術会議法に基づく首相の任命権について、83年の国会では「推薦していただいた者は拒否はしない。形だけの任命をしていく」としていた。法を巡る政府見解の食い違いは見過ごせない。

 国会の閉会中審査でその点をただされたものの、「解釈を変更したものではない」と政府側は言い張る。18年の時点で解釈を単に「明確化」したにすぎない、としている。

 言い逃れのつじつま合わせにきゅうきゅうとする官僚も恥ずかしいに違いない。

 前の安倍晋三政権で、さんざん繰り返された官僚の掌握術もあるのだろう。政権の意に沿えば重用され、盾突く人間は冷や飯を食わされる―。

 「法の番人」内閣法制局長官に、集団的自衛権の行使容認に異論を唱えぬ人間を法務省の外から座らせた問題しかり、官邸に近い東京高検検事長だけ定年延長させるために閣議決定で法解釈を変えた問題しかり。

 政権の顔色をうかがい、なびく「忖度(そんたく)」の悪習を、まさか学問の世界にまで、はびこらせようというのだろうか。

 あまりの反響に面食らう声も聞こえた自民党の巻き返しだろう。下村博文政調会長が、学術会議のあり方を問うプロジェクトチームを設け、政府への提言をまとめるという。「行政改革の残された課題という視点で」とこだわった点をみると、台所から締め付ける「兵糧攻め」の類いかもしれない。

 事実、2年前には自民党議員の一人が、政権に批判的な私立大教員に「巨額の科学研究費(科研費)が支給されている」ととがめている。大学の間では今回も、「科研費枠が削られかねない」と政治家の圧力を懸念する声が聞こえてくる。

 菅首相は、学術会議に国の予算を年間10億円以上、投じてきたと強調した。「10億」の数字が独り歩きするのは目に見えている。会員1人当たりの手当は月2万円ほどにすぎない。為政者としての見識を欠く。

 首相の母校、法政大の総長が政権の圧力を不当としてメッセージを発している。〈学術研究は政府から自律していることによって多様な角度から真理を追究することが可能となり、その発展につながる〉。「学の独立」を心すべきである。

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