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核のごみ調査に名乗り 地域に分断強いるのか

2020/10/10 7:10

 原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を最終処分する候補地選びを巡り、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村が手続きの第1段階となる文献調査に名乗りを上げた。

 寿都町の片岡春雄町長はきのう上京し、正式に申請した。神恵内村の高橋昌幸村長も調査の受け入れを表明した。

 寿都町で調査への応募の検討が表面化してから2カ月、神恵内村では1カ月しかたっていない。短い間に住民の合意が得られたとは到底考えられない。

 2人の首長は「議会の賛同は得られた」と強調するが、地元の漁協などが反対するなど、核のごみの危険性への不安は根強い。さまざまな住民の声を丁寧にすくい上げたとは言い難い。

 放射線が十分安全なレベルに下がるまで数万年から10万年を要する。遠い未来に影響を及ぼす難題である。地震国の日本で核のごみを地層処分しても大丈夫なのか、という懸念も強い。

 住民の生活と地域の未来に関わる重要な問題だ。片岡町長の「肌感覚で町民の賛成は分かる」というような前のめりな姿勢では、地域の分断を招きかねない。住民と情報を共有し、誰もが議論に参加できる形で合意形成を進めるべきだ。

 核のごみは、原発の使用済み核燃料を再処理した後に残される廃液だ。大量の放射線が出て極めて危険なため、ガラスと混ぜて固め、地下300メートルよりも深い地層に埋めて処分する方法が法律で定められている。

 処分場選定に向けた調査受け入れの公募は2002年に始まった。07年に高知県東洋町が手を上げたが、住民の反対で撤回に追い込まれた。それ以降は名乗り出る自治体は出ていない。処分場を決めないまま原発を動かす現状は「トイレなきマンション」と批判されてきた。

 核のごみの処分場の選定プロセスは3段階あり、正式決定までには20年ほどかかる。地質図や学術論文を調べる文献調査はその入り口で、2年間に最大20億円の交付金が得られる。さらにボーリングなど実地の概要調査に進めば、4年間で最大70億円が交付される。

 寿都町は人口約2900人で、過疎化に悩む漁業の町。片岡町長は「交付金は魅力だ」と率直に語る。多額の見返りを得て悪化する財政を立て直し、地域の成長につなげたい思いは分かる。人口約820人の神恵内村も事情は一緒だろう。

 まずは調査を受け入れてからという打算も透ける。だが、鈴木直道・道知事が「札束で頬をたたくやり方」と批判するように、交付金頼みの財政運営を始めると、途中で抜け出せなくなるのは明らかだ。財政面の恩恵や地域振興と引き換えに、自治体に受け入れを迫るような国のやり方は、もう改めるべきだ。

 日本学術会議は15年、地層処分を急ぐのではなく、核のごみを特殊容器に入れて暫定的に地上で50年間保管し、その間に処分方法について国民の合意形成を図るべきだと提言した。

 国に求められるのは、最終処分地の選定よりも、処分の安全性を確立することではないか。核のごみがどれぐらいの量になるかを見極める必要もある。行き詰まりを見せている国の再処理政策とも深く関わる。国民を巻き込んで、原子力政策の見直しに向けた議論を急ぐべきだ。


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