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不妊治療 幅広い理解得る努力を

2020/10/13 7:06

 政府が不妊治療への公的医療保険の適用拡大の検討に乗り出した。菅義偉首相は少子化対策の柱として、政権の重要政策の一つと位置付け、2022年度の実現を目指している。

 子どもを望む夫婦にとって、治療に伴う経済的な負担が軽減されれば、心強い後押しとなろう。当事者の声を聞き、丁寧に制度設計を進めてほしい。

 晩婚化などを背景に不妊に悩む夫婦は多い。治療件数は年々増えており、18年は45万を超えた。体外受精で生まれた子どもも約5万7千人に上り、過去最多を更新した。

 もはや不妊治療は選択肢の一つとなり、今後も増えるのは間違いない。しかし公的保険が使えるケースは少ない。不妊の原因検査や排卵誘発剤を使う方法など一部に限られる。

 効果がなければ、体外受精や、顕微鏡をのぞきながら精子を卵子に注入する顕微授精といった高度な治療に進む。ただし保険が適用されない自由診療で全額が自己負担となる。

 費用は医療機関によってばらつきがあり、体外受精は1回当たり30万円以上とされる。何回も繰り返すうちに総額で500万円を超えたケースもある。高額な治療費が生活に重くのしかかり、治療の継続を断念する夫婦も少なくない。

 保険の適用対象になれば、治療に対する経済的な制約や負担が軽減されるのは間違いない。子どもが欲しくても授からなかった「患者」により広く救済の手を差し伸べる意義はある。

 政府はまず、体外受精や顕微授精を対象にした現行の助成制度の見直しを進める。

 夫婦合わせて年730万円の所得制限を撤廃するほか、最大6回までの回数制限の緩和や助成額の引き上げも検討している。使い勝手などを検証し、支援の拡充を急ぐべきだ。

 最終的に目指す保険適用は、厚労相の諮問機関で議論していくが、実現には課題も多い。

 公的医療保険を適用するには「治療と疾病の関係が明らか」で、「治療の有効性、安全性が確立している」ことが大前提となる。治療の質を一定に担保するとともに、費用の透明性も高まるメリットがある。

 一方、医療現場からは治療が画一化され、一人一人の患者の状態に合わせた治療を継続できなくなるのではないか、と危惧する声も漏れる。

 保険を適用する範囲の線引きには、専門的な見地から慎重な議論が求められる。さらに保険適用の拡大は、不妊治療を受けない人の保険料や税金にも関わる問題だ。国民の幅広い理解を得る努力も欠かせない。

 子どもをもうけるかどうかは、個人の価値観の問題である。家族の形も多様化している。保険が使えるようになることが、出産を望まない人への圧力とならないよう注意したい。

 働く女性が増える中で、不妊治療には仕事との両立という課題も立ちはだかる。治療中と明かせず、心身ともに疲弊するケースも珍しくない。不妊に対する正しい認識を定着させ、治療を受けやすくする休暇制度の導入なども必要だ。

 少子化対策をうたうなら、安心して子どもをもうけ、育てることのできる社会をどう実現するのか、首相は国民に語るべきだ。

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