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原発処理水、海へ 風評被害 輪をかけるな

2020/10/18

 東京電力福島第1原発の敷地内のタンクにたまる汚染処理水について、政府は海に流して処分する方針を固めた。

 原子炉から出る汚染水は専用の装置で浄化するが、放射性物質のトリチウムだけは除去できず残留したままだ。科学的には安全だと言われても、風評被害が広がる懸念は拭えまい。漁業者ら地元住民から反対の声が上がるのも無理はない。

 これ以上、地域にさらなる重荷や分断を強いるようなことがあってはならない。政府と東電は地元の不安と正面から向き合い、具体的な対策を示して説明を尽くす必要がある。

 福島第1原発では、溶け落ちた核燃料を冷やすための注水や原子炉建屋内に流れ込む地下水などによって、今なお日量140トンほどの汚染水が増え続けている。

 トリチウムを含む処理水は敷地内に設けたタンクで保管しており、既に千基に達した。東電の試算では、敷地の制約からタンクの容量は2022年夏ごろには満杯になる見通しだ。

 実際の放出までには設備工事や審査などで2年ほどかかる。逆算すればこの夏ごろが判断の期限とみられていただけに、政府の姿勢は「スケジュールありき」のようにも映る。強引に結論を急げば、禍根を残すことは間違いない。

 汚染処理水の処分方法について、政府は有識者でつくる小委員会で検討を進めてきた。今年2月に、薄めて海に流す案と大気に放出する案が現実的な選択肢とし、とりわけ海洋放出が有力とする提言を公表した。

 トリチウムは通常の原発でも発生しており、国の基準を満たす濃度に薄めて海に流すことも国際的に認められている。政府の小委員会がまとめた案でも、処理水を海に流す際には、再び浄化処理した上、トリチウムが基準の40分の1になるまで海水で薄めるとしている。

 地元の漁業者らは強く反発している。全国漁業協同組合連合会も「国民の理解を得られない放出には絶対反対」との決議をし、今月15日には岸宏会長が経済産業省などを訪れ、「これまでの10年に及ぶ漁業者らの努力が水泡に帰する」と訴えた。

 福島県の沿岸漁業などは、原発事故により全面的な自粛を強いられ、試験操業が続く。出荷制限を解かれて、全魚種が出荷できるようになったのは今年の2月のことだ。韓国や中国など19カ国・地域が輸入停止や輸入規制を続けている。水揚げ量は事故前の14%にとどまったままだ。風評を払拭(ふっしょく)できたとは言い難く、漁業者らが拒否の姿勢を貫くのは当然だろう。

 政府が計7回開いた関係団体などからの意見聴取会でも、多くの出席者が口にしたのは風評被害への懸念だった。新たな被害を防ぐ具体的な対策は何も示されていない。これでは議論は深まりようがないだろう。

 海に処理水を流すにしても、どこから、どのように放出するのか具体的な方法については明らかにされていない。放出を終えるまでには30年ほどかかるとされる。環境への影響を見通した長期的な対策も欠かせない。

 海洋放出への懸念は国内だけにとどまらない。世界から疑念や反発を招かぬよう、透明性を確保しながら処理水の処分を進める必要がある。

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