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性的虐待、初調査 早期発見・支援体制築け

2020/10/20

 虐待を受けた疑いがあるとして児童相談所に通告のあった18歳未満の子どもについて、性的虐待を把握できず、その後の面談などで確認できた―。そんな事例の実態調査に、厚生労働省が乗り出した。

 転機は昨年1月、千葉県野田市の小学4年栗原心愛(みあ)さんが死亡した虐待事件という。父親による性的虐待を心愛さんが勇気を出して訴えたのに、児相は軽んじて親元に戻した。一連の対応を県の検証委員会が同年11月に報告書で明らかにし、「救える命だった」と難じていた。

 全国220の児相から事例を集め、報告書にまとめる。決して許されない性暴力に対し、政府の立ち遅れ感は否めない。早期発見、早期支援の体制構築を急いでもらいたい。

 性的虐待は潜在化しがちだ。全国の児相が2018年度に相談や通告を受けた児童虐待件数約16万件のうち、半数以上を心理的虐待が占め、身体的虐待が約25%、育児放棄(ネグレクト)約18%と続く。性的虐待はわずか約1%にとどまる。

 性的虐待が「氷山の一角」とされてきたゆえんだろう。とりわけ家庭での被害は、周りからも気付かれにくい。

 中学生の頃まで父親に性的虐待を繰り返されたという広島市の40代女性の場合、その法的責任をただすまで30年近い歳月を要した。入退院を繰り返す母親に相談できず、祖父母も悲しませたくないと心にふたをしてきたと言う。記憶が突然よみがえる心的外傷後ストレス障害(PTSD)に昨今悩まされるとして損害賠償を求め、父親を訴える裁判を起こした。

 17年には刑法の性犯罪規定が110年ぶりに大幅改正されている。法定刑を引き上げる厳罰化に併せ、親などの監護者から18歳未満の子どもへの性交があれば成立する監護者性交等罪も新しく設けた。実情に即した法改正だといえよう。

 19年春、性犯罪を巡る事件で4件も相次いだ無罪判決に抗議し、自らの被害体験を街頭で語る「フラワーデモ」が全国に広がった。そんな輪に励まされ、泣き寝入りを断ち切ろうとする被害者も増えている。

 一方、情報技術(IT)の進展でインターネットなどに児童ポルノや出会い系サイト、子どもを性の対象としたアダルトビデオやゲームが、はびこる現状がある。男女の平等や人権をないがしろにする情報環境は、性暴力の温床にほかなるまい。

 性暴力がどれほど、子どもを傷つけ、自尊心を奪うか。その重大さは、「魂の殺人」と当事者たちが例えるほどである。PTSDを考えても、長期間にわたって人生に暗い影を落としかねない。未然防止に向け、人権の問題として社会全体で改めていく努力が望まれる。

 とすれば、子どもたちが日々通う学校現場との連携も欠かせない。ただ、残念ながら教員も性暴力と無縁ではない。わいせつ行為やセクハラで処分を受けた公立小中高校の教員は18年度、過去最多の282人に上っている。教員自らも襟を正し、性暴力撲滅の環境づくりを進めなければならない。

 国が初めて取り組む今回の調査は、性暴力なき社会に向けた動きである。私たち一人一人が問題に向き合い、考えることが求められている。

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