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「デジタル円」の実験 問題点の洗い出し急げ

2020/10/23

 日銀は2021年度の早い時期に「デジタル円」、つまり紙幣や硬貨と同じように使える新たな形態の電子的な中央銀行マネーの実現可能性を検証する実証実験を始める。

 消極的な姿勢を変えた背景には、先行導入して国際的な主導権を握ろうとしている中国の動きがある。欧米各国の中央銀行などとスクラムを組んで、中国に対抗しようというわけだ。妥当な判断ではないか。

 現時点ではデジタル円の発行計画はないという。とはいえ、物価や金融システムの安定性を確保しながら、既存の民間の電子マネーや現金との共存・補完を図る必要もある。問題点を丁寧に洗い出して、検討を重ねなければならない。

 デジタル通貨は、各国の中央銀行が発行主体となって電子データで発行される法定通貨を指す。企業にとっては現金の運搬や管理などのコスト削減や省力化になる。個人にとってはスマートフォンやICカードなどを使い、現金と同様に店頭やお互いに手軽にやりとりできる。使える店が限られるJR西日本の「ICOCA(イコカ)」など民間の電子マネーとは違い、どこでも使えるのもメリットだ。

 日銀は当初は積極的ではなかった。昨年、巨大IT企業の米フェイスブック(FB)が仮想通貨「リブラ」の発行構想を示したことなどを受け、欧州の中央銀行などとデジタル通貨の研究に乗り出した。20億人を超すFB利用者が国境を越えてリブラを使うようになれば、各国の金融政策の効果を弱め、経済が不安定になりかねないからだ。

 巨大IT企業だけではない。中国政府は「デジタル人民元」で欧米に先んじ、米ドルが基軸通貨の今の国際金融体制を突き崩そうとしている。国際通貨基金(IMF)が今週公表した報告書では、将来的にはドル基軸体制が崩れる可能性があると指摘した。決して杞憂(きゆう)ではない。

 着々と手を打っている中国への警戒感が、欧米などで高まるのも無理はなかろう。日銀も、世界の流れに取り残されないよう研究をしっかり進めて、万全の備えをしておくべきである。

 日銀が想定している実証実験では、まず流通・送金といった基本的な機能や、条件を満たせるかどうかを検証する。その上で、保有できる金額に上限を設けるかどうかや利子を付けるかなどの論点を検討。消費者や民間企業も参加するパイロット実験を視野に入れている。

 導入する前に、幾つかの課題の解決が求められる。民間の電子マネーを巡る犯罪は後を絶たないため、偽造や不正を防ぐ安全性の確保は絶対条件だ。「いつでも、どこでも」使うための技術開発も欠かせない。

 デジタル円が普及すれば、民間銀行の預金減少や融資機能の低下も懸念される。そうした金融インフラへの影響を慎重に検討しなければならない。

 日常生活にも深く関わるだけに不安材料も多い。誰が何にいくら使ったのか、把握が容易になるため、プライバシーが漏れたり悪用されたりする恐れもある。どう歯止めをかけるかや、「デジタル弱者」への配慮も忘れてはならない。

 どれだけ便利になるのか。新たな課題にどう対処するのか。日銀は、具体的に示して国民の理解を得る必要がある。

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