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菅首相の所信表明 俯瞰的ビジョン見えぬ

2020/10/27 6:44

 菅義偉首相がきのう、就任後初めての所信表明演説をした。凝った引用もなく、質実志向は伝わった。「共に…しようではありませんか」と繰り返し、与党席の拍手をあおった安倍晋三前首相との違いが際立つ。

 半面、めりはりには欠けた。棒読みのような調子も手伝い、政策や課題の羅列に終始した感が拭えない。数少ないうたい文句が「国民のために働く内閣」。いまさら取り立てて言うことではあるまい。

 出口の見えぬ少子化問題やコロナ禍にどう立ち向かい、ピンチをチャンスに変えるのか。その覚悟と羅針盤を示すことが、一国の針路を預かる首相に求められていたはずである。

 コロナ後の社会に、勇気や希望をもたらす変化を期待する国民には、程遠い内容だったと言わざるを得ない。

 唯一、目指す未来像らしきビジョンがうかがえたのは「グリーン社会の実現」だろう。2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにし、脱炭素社会の実現を目指す―と菅首相は宣言した。

 ただ、世界の潮流からは大きく後れ、批判を浴びた揚げ句というのが実態である。環境省によれば、国内でも岡山、鳥取など22都道府県を含む164の地方自治体が、すでに同じ目標を表明済みだという。

 遅まきながら、画期をなす可能性はある。高度成長の時代を引きずる産業構造や経済社会の「体質」転換につながることが期待されるからだ。

 先を行く欧州が、コロナ後に移行すべき社会のビジョンに描くのは脱炭素社会だけではない。資源やエネルギーの地域内循環など、環境への配慮と両立させる復興「グリーンリカバリー」を目指している。

 30年後までに必ず達成すると言うなら、どんな段階を踏んでゴールに至るかについての工程表も書き込んだ法案化を急ぐべきだろう。脱原発について、可能な限り依存度を低減させるとしてきた政府の煮え切らぬ姿勢も転換が求められよう。

 菅首相はこの後、日本学術会議の任命拒否問題や森友学園問題での公文書改ざんなど、自身に不都合なことを巡って野党からの追及が必至である。

 学術会議の問題から透けて見えたのは、異論や反論を許さず、納得いく説明もしないといった強権的な姿勢にほかならない。にもかかわらず今回、演説の最後にまたぞろ「自分でできることは、まず自分でやってみる」と持論を持ち出した。

 コロナ禍で寄る辺ない生活困窮者に、どう聞こえるだろう。「自己責任」を強いられると受け取ったのではないか。

 本来、所信表明で首相が指し示すべき自らの時代認識や世界観の言及が乏しかった。

 とりわけ外交・安全保障については、現状をなぞってみせるにとどまった。前政権が力を入れながら進展のなかったロシアとの北方領土返還交渉も、「条件を付けず金正恩(キム・ジョンウン)氏と向き合う」と言いつつ進まぬ北朝鮮の拉致問題も、従来方針の検証抜きに展望は開けまい。

 臨時国会は、あすから代表質問に移る。内政、外交ともに、俯瞰(ふかん)的なビジョンをどう描いているのか。論戦を通じ、菅首相には率直に、もっと語ってもらいたい。 

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