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ANAリストラ 減便は地方の声を聞け

2020/10/30 6:35

 全日本空輸を傘下に置くANAホールディングスの2021年3月期の連結純損益が、過去最悪の5100億円の赤字になる見通しになった。新型コロナウイルスの流行に伴って国際線を中心に低迷が続くと判断したためで、経営立て直しのためのリストラは避けられまい。

 だが看過できないこともある。収支改善のため、国内線は羽田や大阪(伊丹)を発着地としない地方間の路線は一時的な欠航ではなく、便数自体の削減も検討するとしたことだ。

 ANAが国内で就航している空港は公共財といえよう。いずれも地元自治体が多大な予算を投じて建設し、維持してきた。エリアが広い北海道や離島の多い沖縄などでは、欠かせない住民の交通手段でもあろう。

 中国地方の空港にも羽田や大阪以外の都市と結ぶ便は少なくない。リストラに伴う減便は地域振興や観光誘致にさらなる悪影響を与え、空港の収支にも打撃を与えるのではないか。

 国内線の減便については慎重に検討してほしい。地元の自治体や経済界などの声を聞くことを忘れてもらっては困る。

 ANAのリストラについてはもう一つ、重要な問題がある。片野坂真哉社長は「約4万6千人いるグループ社員の雇用は守る」と述べる一方、400人以上を外部の企業に出向させるという。併せて希望退職も募って総人件費を圧縮する案だ。

 しかし「空の安全」は技術革新もさることながら、乗員、整備要員をはじめ多くの働き手に支えられてきたのではなかろうか。ANAは長年、国際的に安全性の高い航空会社とされている。今回の記者会見の限りでは空の安全に言及するくだりがなかったことが気に掛かる。

 ANAはコスト削減の一つとして傘下の格安航空会社(LCC)事業の強化も挙げている。パイロットの処遇などに重大な変更はないのかどうか。あらためて丁寧な説明を求める。

 国際航空運送協会(IATA)が、21年の世界の航空業界の売上高は新型コロナ流行前の19年と比較して半分に落ち込むとの見通しを示している。

 空前の旅行ブームが暗転しただけに、機体のリース費用や人件費などの固定費が際立つ航空業界の打撃は大きい。タイやオーストラリアなどでは航空会社が経営破綻した。また、ドイツやオランダなどでは、政府が巨額の公的支援をしたり、銀行融資に保証したりしている。

 日本国内では、10年に日本航空が経営破綻した際、銀行団に5千億円の再建放棄を要請し、政府は3500億円の公的資金を注入した。ANAは今のところ自力再建の道を想定しているものの、苦境がさらに深刻になるという見方もあるようだ。

 しかしながら今回は多くの業界や業種がコロナ流行によって苦境にある中、再び航空会社を政府が全面支援することに、納税者の理解が得られるのかどうか。空港着陸料減免など側面支援にとどめるべきだろう。

 ANAはJALの劣勢をよそに、ドル箱の羽田発着枠で有利な配分を受け、訪日客受け入れの国策に沿って国際線を中心に「拡大路線」を取ってきた。コロナ後の旅行需要の回復が今は見通せない中、ANAは既定路線の再検討も迫られることになりはしないか。 

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