
溝手氏、元広島県議会議長の奥原氏へ50万円 参院選前月に 専門家「買収の可能性」【決別 金権政治】
2019年7月の参院選広島選挙区に自民党公認で立候補して落選した溝手顕正氏(78)の自民党支部が参院選の1カ月前の同年6月、元広島県議会議長の奥原信也県議(78)=呉市=が関係する同党支部に50万円を交付していたことが10日、分かった。溝手氏側は「党支部間の交付金で法的に問題はない」と説明する一方、奥原県議は「選挙応援を頼む趣旨と感じた」と話している。専門家は、公選法が禁じる買収行為に当たる可能性があると指摘している。
同選挙区は大規模買収事件の舞台となり、自民党の新人として初当選した河井案里被告(47)と夫の克行被告(57)=衆院広島3区=が公選法違反(買収など)の罪で公判中。奥原県議に対しては同年4〜6月に計200万円を渡したとされる。奥原県議は今年9月にあった案里被告の公判に証人として出廷し「票を集めてほしいということと思った」と証言し、買収目的の金だったと認めている。奥原県議を巡り、溝手氏側にも買収と受け止められる可能性がある金銭のやりとりが表面化した形だ。
溝手氏の事務所によると、参院選が始まる1カ月前の19年6月3日、溝手氏が代表を務める「自民党広島県参院選挙区第二支部」から、奥原県議の後援会長が代表の「自民党呉第一支部」の口座に50万円を振り込んだ。奥原県議側は領収書を渡しており、両支部とも19年の政治資金収支報告書に交付金として同額を記載している。
中国新聞の取材に対し、溝手氏の津久井晴記秘書は「奥原県議に要求されたと別の男性秘書から聞いている。事務所から一方的に振り込んだわけではない」と説明。溝手氏への選挙応援を依頼する趣旨や応援の対価ではないとしている。当時秘書だったその男性は「収支報告書に書いてある通りとしか答えられない」と話している。
これに対し、奥原県議は「私から金を要求した事実はない。一方的に振り込まれた」と強調。「これまで溝手氏から交付金や寄付をもらったことはなく、明確に選挙応援を頼む趣旨と感じた」と話している。参院選では、溝手氏と案里氏の双方を支援したという。
中国新聞が、溝手氏と奥原県議が関係する政治団体の過去10年分の政治資金収支報告書の要旨を調べたところ、この間に交付金や寄付のやりとりはなかった。
政党支部間での資金提供は、領収書を発行して政治資金収支報告書に記すことを条件に政治資金規正法で認められている。一方で、公選法は、候補者を当選させるために選挙区内の有権者や選挙運動者に金銭を提供する行為を買収として禁じている。
政治資金に詳しい日本大法学部の岩井奉信教授(政治学)は「公選法では、領収書を取っているかや収支報告書に記載したかどうかは問題ではなく、やりとりしたお金の意味合いが争点となる。今回は50万円と高額で選挙時期にも近い。県議側に買収の認識があったのであれば、政治資金規正法上は問題なくても、公選法では買収と見られてもおかしくない」と指摘している。
<クリック>参院選広島選挙区 3年ごとの参院選で2議席が改選され、通常は与野党で議席を分け合う無風区だが、2019年7月の参院選では、自民党が公認した現職溝手顕正氏と新人河井案里被告、野党系の無所属現職の森本真治氏が激戦を展開。森本氏と案里被告が当選し、6選を目指した溝手氏は落選した。その後、発覚した大規模買収事件で検察当局は、案里被告の夫の克行被告が同年3〜8月、奥原信也県議を含む地方議員や後援会員ら100人に計2901万円を渡したとして起訴された。うち5人は案里被告と共謀して計170万円を渡したとされる。
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