コロナが脅かす「いつもの冬」
2020/11/11 6:36
<こちらでは、寒さのきびしいことを、凍(しば)れたと言います>。三浦綾子氏の小説「塩狩峠」の主人公の鉄道員が、北海道から東京の母に宛てた手紙だ。時は明治。朝は布団の襟がガチガチに凍り、ガラス窓は美しい模様を見せて白く―▲かの地も今なら冬の室温が日本一高くて、沖縄県に次いで薄着でくつろいでいるという。ウェザーニューズ社が調べた。確かに北海道の住宅会社の広告をのぞくと、部屋の暖かさを売りにもしている。「高断熱・高気密」を競い合っているわけだが▲ほかほか過ごす、いつもの冬に警鐘が鳴った。コロナが再び勢いを増し、北海道の感染者数は際立つ▲札幌・ススキノは時短営業を求められ、観光地の「Go To」消費も冷え込む気配である。部屋の換気はさらに奨励されそうで、テレビでは飲食店主が「真冬に戸を開け放しにできないよ」とぼやく。いや、こちらでも窓を少々開けた電車が走っている。はなをすする音が時には漏れ聞こえ、頃合いが難しい▲小説の主人公はペンをおくとストーブにまきをくべ、馬そりの鈴の音を聞く。それにも似たロマンを旅人は北の大地に求めてきたのだが、いつもの冬は次第に遠のきつつある。
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