コラム・連載・特集

女川原発再稼働「同意」 住民の不安を置き去りか

2020/11/12 6:45

 宮城県の村井嘉浩知事はきのう、東北電力の女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)の再稼働に同意した。東日本大震災で被災した原発の再稼働への地元同意は初めて。過酷事故を起こした東京電力の福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉(BWR)としても初めてとなる。

 知事の判断を受けて、東北電力は2年後の再稼働に向けた準備を加速させることになる。

 国の基準はクリアしたものの、安全性や事故時の避難計画の実効性などへの懸念は根強い。住民の不安を置き去りにしたまま、再稼働へ突き進むことがあってはならない。

 原子力規制委員会による安全審査に合格したのは今年2月末。直後に梶山弘志経済産業相が県に地元同意を要請してから手続きが急ピッチで進んだ。

 女川町と石巻市の議会に続き、県議会が先月、早期の再稼働を容認する意思を表明した。9日には村井知事が県内全35市町村の首長から意見を聞く会も開いた。そしてきのう、女川町長、石巻市長と最終協議し、再稼働へゴーサインを出した。

 地元が同意に動くのは、地域経済と原発の結びつきが強く、立地自治体も原発マネーへの依存を断ち切れないからだろう。震災後の人口減少で地域経済が疲弊し、主要産業の漁業も衰退してきた厳しい現実がある。

 ただ形の上では手順を踏んでいるように見えるが、当初から「同意ありき」でゴールを目指していたのではないか。住民の懸念や不安を直視し、慎重に議論を尽くしたとは言い難い。

 9日の市町村長会議では、同意手続きを着々と進める村井知事を批判する首長もいた。中でも「事故が起きた時に計画通りに避難できるのか」という課題を懸念する声が相次いだ。

 国は30キロ圏内の自治体に対し、広域避難計画を策定するよう定めている。女川原発では、7町村の約20万人を避難させる計画を策定している。

 だが女川原発のある牡鹿半島は、道路網が脆弱(ぜいじゃく)で、避難車両が殺到すれば、渋滞で逃げ遅れる住民が出る恐れがある。津波などに襲われれば、海岸近くの道路が通行できなくなることも想定される。実効性ある避難計画がないまま、「再稼働ありき」で進んでは困る。

 安全性への不安も払拭(ふっしょく)できていない。

 震災では、福島第1原発と同じように、高さ13メートルの大津波に襲われた。海面から15メートルの高台にあったが、2号機の原子炉建屋に浸水があり、原子炉を冷却する設備の一部が使えなくなった。東北電力は「安全に停止できた」とするが、辛うじて事なきを得たにすぎなかった。

 東北電力は3400億円を投じ、耐震補強や防潮堤建設などの対策を講じ、原子力規制委の審査をクリアした。しかし安全が保障されたわけではない。

 女川原発の再稼働について、山形県の吉村美栄子知事は「再稼働は安全を第一に考え、隣接県への影響にも十分配慮してほしい」との意見書を村井宮城県知事に出した。

 東日本大震災から来年3月で10年となる。原発で過酷事故が起きれば、被害は立地県だけにとどまらず、広域かつ長期に及ぶことを学んだはずだ。コロナ禍の混乱の中で、急ぎ進めた「同意」に危うさを感じる。 

  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

 あなたにおすすめの記事

社説の最新記事
一覧


 あなたにおすすめの記事