コロナ危機と健康保険 現役世代の負担を軽く
新型コロナウイルスの感染拡大が健康保険組合の財政に与える影響を健康保険組合連合会(健保連)が試算したところ、2021年度は加入する組合全体で6700億円、22年度は9400億円の赤字になる見通しになった。景気・雇用の悪化が社会保障の危機として立ち現れたといわざるを得ない。
健保組合は約2890万人が加入し、全国に1388組合ある。企業と従業員双方が負担する保険料で運営し、加入者の医療費だけでなく高齢者の医療費も負担している。「団塊の世代」が75歳以上になり始める22年度は医療費が増えるため、約6千億円の赤字を想定していたが、コロナの追い打ちで赤字幅が広がる事態になった。
コロナによって企業業績が悪化して従業員の賃金は引き下げられ、それによって保険料収入も減少する「負の連鎖」である。先の試算は保険料率を20年度の平均9・2%で維持した場合であって、22年度に収支を均衡させるには10・5%に引き上げる必要があるという。
だが現役世代には社会保険料だけでなく、税金も重くのしかかる。昨年10月には消費税率の引き上げもあった。負担感は限界に達しているはずだ。
健保組合だけではない。中小企業の従業員が加入し、国庫補助を受けている全国健康保険協会(協会けんぽ)も先が見えない。現在の平均保険料率10%を維持した場合でも、数年後には準備金を取り崩さなければならないという。コロナ以降は被保険者数の伸びが急速に鈍化し、8月までの保険料の納付猶予額も1050億円に上る。
独立採算の健保組合が立ち行かなくなった企業には解散という選択肢もあって、加入者は協会けんぽに移行する。その場合は協会けんぽへの国庫負担が増すことになる。いずれにせよ、現役世代あるいは将来世代につけを回すことになろう。
健保連と協会けんぽに経団連、日本商工会議所、連合を加えた5団体は先頃、田村憲久厚労相に対し、給付と負担の見直しを含む医療保険制度改革を遅くとも22年度までに確実に実行するよう要望した。第一に求めたのは、75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担を原則2割に引き上げることである。
2割への引き上げに伴う議論の焦点は所得の「線引き」だ。最も広く網掛けする案は年収155万円で線を引いて、75歳以上の人の6割を含める。
もっと対象を絞り込むべきだとの意見もあるが、現役世代による高齢者医療費の負担をいかに軽くするかという点に重きを置いた議論を望みたい。高額医療費には払い戻し制度もある。単純に高齢者の負担増にはつながらないのではないか。
むろん、より重要なことは医療費の抑制だろう。医療の世話になる機会をできるだけ減らすことだ。健保連や協会けんぽなど保険者団体は、健康増進と重症化予防のための機能発揮がさらに求められる。診療報酬の請求内容が適正か、審査する仕組みの整備も急がれよう。
私たちも意識を変えよう。とりわけ薬については、重複服薬を避けたり、飲み忘れ・飲み残しから生じる「残薬」を減らしたりすることがすぐにでもできる。全世代のために何がベストか、という視点を持ちたい。
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