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首相・IOC会長会談 開催前提は楽観的過ぎる

2020/11/18 6:37

 国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長と菅義偉首相が会談し、来年夏に延期した東京五輪・パラリンピックには観客を入れて開催する方針で一致した。「人類がウイルスに打ち勝った証し」とする決意も首相の口から語られたが、楽観的にすぎないか。

 新型コロナウイルスの感染拡大は国内外で第3波の到来と見られる。今月中旬、日本では3日連続で感染者数が過去最多を更新したほか、札幌市は不要不急の外出の自粛を呼び掛けている。欧米でも猛威を振るっていて、とりわけ米国の第3波は第1波、第2波より深刻だ。

 ワクチン開発を巡る朗報は伝わってくるものの、感染拡大の終息が見えてきたわけではあるまい。「Go To」キャンペーンは緊急経済対策として進められているが、それを不安に感じる世論も強まっている。経済対策とコロナ対策は、かろうじて均衡を保っているだけだ。

 にもかかわらず、首相は観客を想定した五輪開催を検討しているとバッハ氏に伝え、バッハ氏も観客を入れることに確信を持つことができたと述べた。その「確信」は何に基づくのか。巨大イベント五輪の感染リスクを精査したとは思えない。

 バッハ氏によると、ワクチンはIOCの負担で参加選手に行き届くようにするという。日本政府は近く、ワクチンを接種した選手の入国について特別なルール作りを求められよう。

 しかし、各国の競技関係者が選手と接触する機会を限りなくゼロに近づけるのは極めて難しい。計1万人を超す選手やコーチらが宿泊し、一定の3密が避けられない選手村での感染対策はどうするつもりなのか。

 さらに五輪開催中は11万人に上るボランティアが、競技場や駅・空港などに集まる。もともと無償の活動には批判があろうが、ここも3密対策として規模縮小の検討が必要だろう。

 バッハ氏は「人類は今、トンネルの中に入っているが、五輪の聖火はトンネルの先の明かりに見える」とも会談で述べた。叙情的だが、これまた願望を言い表したとしか読めない。

 五輪が人類の希望なら、無観客で開催して歴史に刻めばいいはずだ。それができないのは、900億円のチケット販売収入を見込む大会組織委が赤字に陥るからではないか。さらにIOCにとっては、スポンサー企業との種々の約束を果たさなければ、五輪ビジネスが揺らいでしまうとの危機感があろう。

 だが、それは五輪ビジネスの側の事情であって、開催国の国民や開催都市の市民が納得できる理屈とは到底思えない。

 バッハ氏は東京都の小池百合子知事とも面会し、開催への前向きな感触を得たようだ。五輪を景気浮揚の決め手と考えてきた都としても、バッハ氏の決意の程を知ることができた。

 だが都は財政調整基金を取り崩すなどして巨額の予算をコロナ対策に投じている上、五輪でコロナが拡大すれば地域医療体制は持たない懸念が拭えない。五輪の追加経費の分担もあり、都民の理解は欠かせない。

 体操の内村航平選手が先頃、「国民の皆さんとアスリートが同じ気持ちじゃないと、大会はできないと思う」と発言した。IOCをはじめとする関係者はよくよく耳を傾けてほしい。 

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