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川辺川ダム容認 多様な治水対策、検討を

2020/11/22

 熊本県の蒲島郁夫(かばしま・いくお)知事が、ことし7月の豪雨で氾濫した球磨川流域の治水対策として、最大支流の川辺川でのダム建設を容認した。

 知事の看板政策だった「ダムによらない治水」からの方針転換といえる。豪雨被害が甚大だったことは考慮すべきだが、被災の記憶が覚めやらないうちに、短絡的にダム建設へ回帰する判断は妥当だろうか。

 流域住民の間では、ダムへの賛否は割れている。大きな政策転換となるだけに、知事は前面に出て説明責任を果たす必要がある。ダム建設の是非について科学的根拠を示しながら議論を深め、丁寧に民意を形成していく対応が求められる。

 熊本県南部を流れる球磨川は氾濫を繰り返してきた「暴れ川」として知られる。アユ漁などが盛んな全国有数の清流でもある。国は1966年に川辺川へのダム建設計画を発表したが、水質悪化を懸念する地元住民らの反対は根強く、長らく着工できなかった。

 2008年に初当選した蒲島知事は計画への反対を表明。翌年に誕生した旧民主党政権が建設中止を決め、「脱ダム」の象徴とされた。

 以来10年以上にわたってダムによらない治水対策を検討してきたが、流域自治体の利害調整が難航するなどして、まとまらなかった。そして7月の豪雨で球磨川が氾濫し、多数の犠牲者を出した。

 方針転換の理由について、知事は「命と環境の両方を守ってほしいという民意だ」と説明した。苦渋の決断だったのだろうが、災害が起きるまで具体的な治水対策を講じることができなかった責任は重い。

 知事はおととい、環境への負荷が比較的小さいとされる「流水型ダム」を建設するよう、赤羽一嘉国土交通省に要請した。「穴あきダム」とも呼ばれ、治水専用で普段は水が流れ、洪水時にだけ水をためる。

 知事はこれによって「清流は守られる」と強調するが、流水型は全国に5基しかなく、豪雨時のデータも少ない。水質やアユなどへの影響も不透明だ。

 住民の懸念に応えるためにも、厳格な環境影響評価(アセスメント)は不可欠だ。国はダムの上下流の自然環境にどのような影響があるのか明らかにし、説明を尽くす必要がある。

 国は7月豪雨の検証結果で、ダムがあれば浸水面積は6割低減できたとする一方、「ダムだけでは全ての被害は防げなかった」と認めた。

 地球温暖化などで豪雨が多発し、水害も激甚化している。ダムの能力には限界がある。治水の在り方も柔軟に変化させ、想定外のリスクに備えなければならない。

 国は上流から下流まで地域が一体となって被害を軽減する「流域治水」を打ち出している。熊本県も今回、推進する考えを表明した。ダム以外にも、堤防のかさ上げや河川の流路変更、調整池の整備などの具体化を急ぎたい。

 ハードだけでなく、避難態勢の強化や土地利用の見直しなどソフト面の手だても重要になる。国と県は、流域の市町村と連携しながら、浸水しても被害を最小限に抑えられるまちづくりを目指し、多様な治水対策をさらに検討すべきだ。

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