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瀬戸大橋の下の島びとたち

2020/11/23

 40年も前の随筆。「近頃の船は全くすましこんで海を走っていく」と嘆いたのは民俗学者の宮本常一である。かつて船は風任せ、潮任せ。瀬戸内の小さな島々も、立ち寄る船でにぎわった▲小舟で小商いをする人を「沖ウロ」と呼んだという。来島海峡辺りを走る船にもくっつき、お金と品物をうまくやりとりする。むろん風待ち、潮待ちの島は絶好の稼ぎの場だったのだろう。今は瀬戸大橋の橋脚が立つ島々の名も、宮本は挙げている▲その一つ、香川県側の与島の沖で修学旅行の小学生が乗る海上タクシーが座礁した。船長が海図をよく調べていなかったらしいが、全員無事救助されたのは近くの島びとの働きが大きい▲与島の隣、岩黒島の漁師はフグ養殖の仕事中、ふと海を見ると船が沈みかけていた。現場に駆け付け、救命胴衣の子らを次々に助ける。海に飛び込めず、船室の屋根で待つ子も大丈夫だった。日没ぎりぎりで、皆が冷静だったことが幸いしたのだろう。65年前の紫雲丸の惨事が頭をよぎり、よくぞ、と感服する▲すましこんで仕事を急いでいたら、かの漁師も沖の異変に気づいたかどうか。橋桁が立つ島の人たちの、絶えざる海へのまなざしを思う。

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