若者の大麻汚染 「無害」情報はフェイクだ
法務省が公表した2020年版の犯罪白書によると、19年の大麻取締法違反の検挙数は前年比21・5%増の4570人と初めて4千人の大台を突破した。しかもその半数以上を30歳以下が占め、20歳未満は4割以上も増えた。看過できない。
気になるのは安易に手を出していることだ。2年前の警察庁の調査では、初めて大麻を使った経緯で「誘われて」との答えが、20歳未満では86・1%、20歳台では77・9%にも上った。「少しなら構わない」「個人の自由」など危険性に対する認識の甘さもうかがえる。
若者への広がりは今年も歯止めがかかっていない。いずれも強豪の近畿大サッカー部と東海大硬式野球部で部員の大麻使用が10月に相次いで発覚した。
大麻は、薬物犯罪の中で最初に手を染めやすく、覚醒剤など他の薬物使用のきっかけになりやすい「ゲートウエー(入り口)ドラッグ」と言われる。
しかしその影響は軽視できない。大麻にはテトラヒドロカンナビノール(THC)という成分が含まれ、脳神経のネットワークを寸断する。酒に酔ったような感覚に加え、視覚や聴覚、触覚などが鋭敏になるという。
ストレスから解放されたり幸福感や幻覚作用がもたらされたりするため、再び使いたくなって繰り返すうち自分の意思では止められない「依存」状態に陥ってしまう。そうなると、薬物を買う金を得るための犯罪、さらには幻覚から人を傷つける重い犯罪へとつながりかねない。
青少年期に使うと、正常な成長を妨げ、精神疾患を引き起こすリスクが高まる。脳の一部が萎縮し、記憶力や集中力の低下や無感動など、知能に障害を与える恐れもある。そんな危険性を改めて認識しておきたい。
しかも近年、THC濃度が強化された新品種や、有害成分を濃縮した物も登場。厚生労働省の麻薬取締部は「麻薬に匹敵する毒性を持つものもあり、もはやゲートウエードラッグではない」と強調している。
こうした警告があるのに、なぜ若者は手を出すのか。心身への影響を軽視する誤った情報がインターネットで広まり、誤解している可能性があるという。
例えば「他の薬物より大麻は安全で害はない」「依存にならない。いつでもやめられる」など科学的に不正確な情報だ。フェイク(虚偽)である。
うのみにした人から「眠気覚ましやダイエットになる」と勧められ、仲間外れを避けるためや好奇心から「1度だけ」試してしまう…。警戒心を緩めると取り返しが付かなくなる。
「合法化されている国もあるから安心」との誘い文句もあるようだ。南米ウルグアイやカナダ、米国の一部の州は嗜好(しこう)品としての大麻を合法化している。
しかし日本と違い、麻薬を使う人の割合が数十倍高く、大麻使用が広がっていた国である。解禁は、闇市場より安く提供して犯罪を抑止するためだ。同じ土俵で論じるべきではない。
水際での密輸入防止など取り締まり強化が、政府には求められる。並行して「大麻は無害」といった誤った情報の拡散を防がなければならない。家庭や学校、地域社会を挙げて、人体にどんな害があるかなどの正確な情報をどう広めるかを考えて、実行に移す必要がある。
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