児童虐待最多 体制強化待ったなしだ
全国の児童相談所が昨年度、児童虐待として対応した件数が前年度比21・2%増の19万3780件に上った。1990年度の統計開始以来最も多く、前年度からの増加数も過去最多となったことを憂慮する。
警察や近隣住民からの通告・相談が増えている。虐待についての関心の高まりが増加の背景にあると、データをまとめた厚生労働省はみている。しかし顕在化するのは氷山の一角ではないか。増加の一途をたどる事態を、もっと深刻に捉えるべきだ。虐待の兆候をいち早くつかむため、児相の体制強化は待ったなしだ。
虐待の形態で最も多いのが、「心理的虐待」だ。全体の56%余りを占めている。とりわけ、子どもの前で親が配偶者に暴力を振るう「面前DV(ドメスティックバイオレンス)」の通告増加が目立っている。
2018年に東京都目黒区の船戸結愛ちゃん=当時(5)=、19年に千葉県野田市の栗原心愛さん=当時(10)=が死亡した虐待事件を覚えている人も多かろう。いずれも母親が夫からのDVに遭い、逆らうことが難しい状況で、両親による虐待が深刻化したことが分かっている。
先月、茨城県ひたちなか市で生後1カ月の小沼舞香ちゃんを死なせたとして父親が逮捕された事件でも、母親が夫への恐怖心から虐待を制止しきれなかったという。自治体の母子保健担当者が母親とこまめに面談し相談にも乗っていたが、父親とは1度面会したきりで家庭の事情を十分把握できず、児相につなぐ判断には至らなかった。
子育てを母子だけの問題と捉える発想から変えていく必要があるのではないか。児相とDV被害者支援団体との情報共有や連携など、包括的な仕組みづくりも急がねばなるまい。
今年は新型コロナウイルスの感染拡大で、家族が家で一緒に過ごす時間が増えたことから、かねてDVの増加が懸念されている。外出機会が減り、虐待のサインを見逃してしまう懸念もある。ストレスや収入減少など親の不安が、虐待やDVにつながるリスクも指摘されている。危機感を持って目を光らせなくてはならない。
政府は虐待への対応に当たる児童福祉司を、18〜22年度の5年間に2千人増やし、5200人余りにするという計画を掲げている。しかし虐待への対応件数は計画を立てた18年当時を大きく上回るペースで増えている。計画の前倒しやさらなる人員増も検討すべきではないか。
もちろん人員を増やすだけでは解決できない問題もある。心理的、身体的な負担が大きい職務でもある。待遇を改善し、専門性や対応力を強化する対策も求められる。
児童虐待防止法の施行から今月で20年を迎えた。それまで家庭内の問題だと片付けられていた、保護者による暴力や育児放棄などを「虐待」と定義し、被害防止に向けた社会の責務を明記した意義は大きい。
親の体罰を禁じる改正児童虐待防止法も今年4月に施行された。体罰は子どもの心身に深い傷を残す暴力であることをあらためて認識したい。
悩みを抱え、助けを必要としている家庭が必要な支援にたどり着けるよう、社会全体で手を携えなくてはならない。
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