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コロナ禍と熊谷守一展

2020/11/29 6:47

 本当に必要な時以外は外に出掛けない。散歩が日課だが、家の庭を回るくらい。新型コロナの渦中にいるような暮らしを晩年、20年近く続けた画家がいた。画壇の「仙人」と呼ばれた熊谷守一(もりかず)。生誕140周年の巡回展が三次市の奥田元宋・小由女美術館で開かれている▲庭は広く、教室二部屋分あったらしい。立ち木や草花の間を縫い、あいさつをするように巡った。蜂やカマキリなどにも目を細め、晴れた日にはござに寝そべってアリを観察したという▲そんな結晶の「蟻(あり)」「いんげんに熊蜂(くまばち)」といった絵が並ぶ会場に本人の口癖を添えてある。<石ころ一つ、紙くず一つでも見ていると、まったくあきることがありません>。退屈なし、金銭欲なし。文化勲章の内示さえ辞退している▲かすみを食う「仙人」生活は、まねのできる芸当ではあるまい。ただ、10年近く前の東日本大震災で気付かされたはずの教訓が思い出される。身の回りの「当たり前」や命がどれほど尊く、丁寧に生きることが大切か▲日本画や書も交えた約150点の作品群に幾つか、中天に懸かる月の絵がある。どれも、庭先や軒下から見上げた景色とおぼしい。あす夕暮れの満月が待ち遠しい。 

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