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ネット中傷対策最終案 早期救済につながるか

2020/12/1 6:42

 会員制交流サイト(SNS)などインターネット上の誹謗(ひぼう)中傷対策について、総務省の有識者会議が最終案をまとめた。

 匿名の投稿者を特定しやすくするための新たな情報開示制度の創設などを盛り込んだ。政府は関連法の改正案を来年の通常国会に提出する方針だという。

 これまでネット上での誹謗中傷の被害は半ば放置されてきた。被害者救済に重きを置いた今回の対策の意義は大きい。

 ネット上の嫌がらせは深刻さを増している。「死ね」「消えろ」などと特定の個人や団体を否定する内容もある。敵意をむき出しにした書き込みが集中するケースも目立つ。

 ことし5月には女子プロレスラーの木村花さんがSNS上で繰り返し中傷を受け、死去する痛ましい出来事も起きた。悪意ある匿名の書き込みは、人権侵害の「暴力」にほかならない。

 そうした行為に対し、被害者が損害賠償や謝罪を求めるには発信者の特定が欠かせない。プロバイダー責任制限法に基づいて情報開示を求めることはできるが、手続きには時間がかかることが多く、応じない場合は複数回の訴訟を強いられることになる。

 経済的にも精神的にも負担が大きく、泣き寝入りをする被害者は少なくないとされる。

 新たな制度は、投稿者の情報開示手続きを簡素化することを柱とする。被害者の申し立てによって、訴訟を経ることなく、裁判所の判断で情報開示を事業者に命令できるようになる。投稿者の情報が消えないよう保全命令も出せる。

 手続きも1回で済む可能性が高い。負担が軽くなれば、泣き寝入りをする被害者も減りそうだ。速やかな被害救済へ大きな一歩と言えよう。これまで事実上野放しにしてきたネットの誹謗中傷に歯止めをかける効果にも期待したい。

 一方で、投稿者の情報開示手続きのハードルを下げることは、もろ刃の剣でもある。有識者会議では、消費者問題や内部告発などについての投稿者を企業が特定しようとした事例が報告された。

 批判を受けた企業や政治家が投稿者に圧力をかけるために開示制度を乱用するケースが増えかねない。追及を恐れるあまり、投稿をためらう「副作用」も懸念される。政治や行政、企業に対するまっとうな批判まで妨げられるようなことがあってはならない。

 開示対象となった投稿者はプロバイダーから意見を照会される。裁判所の開示決定に異議がある場合は、投稿者は訴訟に移行できる。自由な言論が規制されないよう、投稿者の権利をどう保護するのかについても慎重に議論すべきだ。

 情報開示の新たな手続きは公開の裁判でなく、原則非公開で行われることも気掛かりだ。どういう基準で情報開示を決定したのか明らかにされなければ、適切な制度運用は担保できない。手続きの透明性を確保した上で、運用事例の分析と検証が欠かせない。

 新型コロナウイルスの感染者や医療従事者も心ない誹謗中傷の被害を受けている。他人を傷つける投稿は許し難い。まずは被害救済を最優先し、「表現の自由」にも十分配慮した制度設計が求められる。 

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