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菅首相の発信力 国民にもっと向き合え

2020/12/7 6:39

 久しぶりに立つ土俵だから、横綱として自覚にあふれる相撲を見せてくれるはずだ。そう期待していたのだが、かわし技ばかりが目に付いた印象だ。

 外遊中を除けば就任以来2カ月半ぶりという、菅義偉首相の記者会見である。新型コロナウイルスの感染拡大対策で、国民にどんなメッセージを発するか注目したが、拍子抜けだった。

 「新規感染者数や重症者数が過去最多となり、極めて警戒すべき状況が続いている」というものの、新味ある具体的な対策は聞かれなかった。「マスク着用や手洗い、3密の回避といった基本的対策の徹底」を国民に今更呼び掛けたのには驚いた。

 「桜を見る会」や前日の夕食会を巡る疑惑の究明を求められてもゼロ回答。これでは「会見の中身が少な過ぎる上、タイミングが遅過ぎる」と批判されても仕方あるまい。内閣支持率の大幅な急落も当然ではないか。

 安倍晋三前首相は、コロナ禍が深刻化した2月末から辞任表明した8月下旬までの半年間に10回を超す会見を開いていた。見劣りは否めない。

 菅氏は、記者団に囲まれて実施する「ぶら下がり取材」などでメッセージを発信していると先日の会見で強調していた。

 しかし時間が短い上、一方的に打ち切ってばかりだ。先月下旬には記者の投げ掛ける追加質問を無視して背中を向けて去っていく様子が物議を醸した。国民と真剣に向き合う姿勢の乏しさを象徴する場面だった。

 官房長官の時から、説明を重ねて国民の理解を得ようとする努力を欠いていた。社会の多様化が進む中、政府と意見や価値観の異なる人にも納得してもらえるよう、きちんと話し合う。国のトップに立った以上、そこに思いを巡らすことが必要だ。

 とりわけコロナ禍という歴史的な危機のさなかである。第3波による医療崩壊が危惧され、国民の不安は高まっている。リーダーにふさわしい発信力や態度が強く求められている。

 国民に向き合おうとしない姿勢は、初めての国会論戦でも浮き彫りになった。自分の言葉で語らずに官僚のメモを棒読みしたり、都合の悪いことを聞かれると説明に詰まって、はぐらかしたりする場面も多かった。

 例えば日本学術会議の任命拒否問題。会議が推薦した6人を政府の判断で排除したのだから理由は当然説明すべきだ。

 ところが、「総合的、俯瞰(ふかん)的な活動を求める観点から判断」とか「多様性の確保」など持ち出す理由は支離滅裂だった。揚げ句の果てに「人事に関するので説明できない」と突っぱね続けた。壊れたレコードのようだと皮肉られたほどだ。

 質問時間さえやり過ごせばいい―。そんなふうに考えているとしたら許されない。国会軽視は、国民を軽んじることでもある。政治不信をさらに広げるはずで、懸念される。

 説明放棄の深刻さを裏付けるデータがある。「お答えは差し控える」との国会答弁が第2次安倍政権以降、急増したと立命館大の桜井啓太准教授が指摘している。とりわけ昨年までの3年間は年500件を超す。

 菅氏自身も政権の要だったから責任は免れない。そうした姿勢は今すぐ改めて、国民にきちんと向き合い、説明を尽くすよう心掛けるべきだ。

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