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生殖補助医療法 一歩前進だが課題残る

2020/12/12 6:44

 第三者から卵子や精子の提供を受ける生殖補助医療で生まれた子の親子関係を明確にする民法の特例法が成立した。

 第三者の卵子で出産すれば産んだ女性を母親とし、第三者の精子を利用して妊娠した場合は、治療に同意した夫が父親になると定めた。

 現行の民法は、人工授精や体外受精など第三者が関わる生殖補助医療による出産を想定していない。過去には、提供精子で生まれた子どもの親子関係を争う訴訟も起きた。

 誰に育てる義務があるのかがはっきりしないと、子どもに不利益が生じる恐れがある。生まれた子の法的な立場を安定させるために一定のルールができたことは一歩前進と評価したい。

 ただ人工授精や体外受精で生まれた子どもが遺伝上の親を知る「出自を知る権利」や、生殖補助医療の規制の在り方などについては結論を後回しにした。多くの課題が残されたままだ。

 特例法の付則には、2年をめどに課題を検討し、必要な法的措置を講じると明記された。国会などで幅広い議論を十分に行い、安心して生殖補助医療を利用できる環境整備を急ぐ必要がある。

 国内では1948年から、不妊に悩む夫婦らに匿名を原則とする第三者の精子を用いた治療が行われ、これまでに1万人以上が生まれたとされる。一部の病院では提供された卵子による治療も行われている。

 これまでに法整備の動きがなかったわけではない。旧厚生省の専門部会などで2000年ごろから議論が始まり、一定の条件で精子や卵子の提供を認め、子どもの出自を知る権利を認める報告書も出されていた。

 ただ国会での議論は深まらず、法制化には至らなかった。出自を知る権利を巡り、精子や卵子の提供者情報をどこまで開示するか。開示の方法や時期などについて多くの論点が解決されないまま先送りされてきた。

 一方で、提供された精子で生まれた当事者たちが成長してから事実を知り、精神的に不安定になったと訴え、提供者の情報開示を求めて声を上げている。

 出自を知りたいと願うのは自然なことだ。海外では提供者の情報を記録し、子が望めばアクセスできる制度を設けた国もある。何より生まれてくる子どもの権利を第一に考えなければならない。当事者の声を十分踏まえ、情報開示の在り方について議論を深めるべきだ。

 卵子や精子の売買の問題にどう対応するかも大きな論点になる。提供者の人種や学歴を選べる民間の精子バンクの利用も広がっている。医療技術の進歩に法整備が追いつかないまま既成事実が積み上げられている危うさがある。

 商業的なあっせんなどを認めれば、優生思想につながりかねないとの懸念も強い。一定の規制は必要だろう。

 第三者に産んでもらう「代理出産」をどうするかという課題も積み残された。生みの親と育ての親に、卵子や精子の提供者が加わる場合もある。家族の枠組みを見直す必要も出てくる。慎重な議論が欠かせない。

 一人一人の人権や生き方に加え、倫理や宗教といった価値観の問題にも関わるテーマだ。幅広い専門家が参加する議論の場を設ける必要がある。

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