建設石綿、賠償確定 被害者救済待ったなし
建設現場でアスベスト(石綿)を吸い込み、健康被害を受けた元労働者や遺族たち約350人が国と建材メーカーに損害賠償を求めた訴訟で、ようやく決着がついた。
最高裁第1小法廷は、国側の上告を受理しない決定をした。規制を怠った国の対応を違法とし、原告に22億円余りを支払うよう命じた二審の東京高裁判決が、これで確定した。全国9地裁で争われている同様の訴訟で、国の賠償責任が確定するのは初めてのことである。
提訴から12年半。この間、すでに200人近い原告が亡くなったという。国はこの事実を重く受け止め、一刻も早く被害者を救済する責任がある。
最高裁は、国とメーカーの責任範囲などを巡って高裁段階で判断が分かれている5件の訴訟についても今後、統一見解を示す見通しだという。
今回確定した東京高裁判決は国に対し、1970年代初めには石綿による健康被害を予見できたとする。企業に雇われた労働者ではないために労働安全衛生法などの保護が及ばなかった個人事業主も、救済対象に含めている。係争中の訴訟にも影響を及ぼすだろう。
最高裁は2014年、石綿製造が盛んだった大阪・泉南地区の元工場労働者による訴訟で、対策を怠った国の責任を認めた。国は原告以外の被害者に提訴を促し、要件を満たせば和解の形で賠償してきた。
しかし提訴は進まず、救済は滞っている。高齢の被害者に訴訟の労力や金銭の負担を求めること自体、無理がある。国の本気度が疑われよう。
さらに国は、工場内の被害は賠償に応じても、屋外で働いた労働者は「別問題」だとしてきた。各地の地裁で国に賠償を命じる判決が相次いだ後も、かたくなに争い続けている。そこにも風穴を開けた、今回の最高裁の決定は重い。
石綿関連疾患で労災認定された人は1万7千人いる。うち建設業の割合は増加傾向で、19年度は6割近くを占めたという。
安価で耐火性や断熱性に優れる石綿は、高度成長期を中心に建材や断熱材として幅広く使われてきた。建材を切断する際、髪の毛の約5千分の1という極細繊維を吸い込んでしまうと、中皮腫や肺がんの原因になる。
潜伏期間は数十年と長く、「静かな時限爆弾」とも呼ばれるのはそのためだ。弁護団によれば、患者の数は毎年500〜600人規模で増え、高齢の原告が多い。しかも、裁判で公となる被害は氷山の一角である。「命あるうちに」との原告の訴えに、国は誠実に耳を傾け、被害者全てに救いの手を差し伸べなければならない。
こうした一連の流れは、被爆者援護を巡る訴訟と似た経過をたどっている。国が責任を認めないまま、小手先の対応を続けるため、訴訟が次々と繰り返され、延々と時間が費やされる…。その結果、命あるうちに救済されるべき被害者の多くが亡くなっている。まるで「時間稼ぎ」のような対応は、人の道に外れているのではないか。
高度成長期に建てられたビルや家屋の多くは、解体時期を迎えている。石綿被害は決して過去の問題ではない。解体作業などに関わる全員を対象にした、継続的な健康調査も望まれる。
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