英EU交渉 決裂回避、両者の責務だ
期限切れを目前にして、既視感を禁じ得ない。欧州連合(EU)を今年1月に離脱した英国と、EUの自由貿易協定(FTA)締結交渉がまたもや難航している。
英国はEUを離脱したものの、年末までは移行期間とされ、加盟国とほぼ同等に扱われる。おおみそかまでに合意にこぎ着け双方で議会の批准手続きを終えないと、これまで無かった関税や通関手続きに追われ、大混乱に陥る可能性がある。
企業活動はもちろん、物流網への影響は避けられず、新型コロナウイルス禍で疲弊している経済をさらに痛めつけかねない。英国に拠点を置く多国籍企業への打撃も懸念される。
世界経済の悪化を防ぐためにも、決裂回避は国際的な責務だ。英国とEUは交渉に全力を尽くし、互いに妥協点を見いだしていかなければならない。
一致点を見いだせていないのは、英国近海でのEU漁船の漁業権の扱いと、英国が産業政策をEUのルールに近づける公平な競争条件の確保の2点だ。
とりわけ漁業権を巡る協議が難航している。産業の規模としては小さいものの、双方の内政問題と結びついているためだ。
英国近海は好漁場として知られ、これまではEUの共通漁業政策の下、フランスやオランダなどの漁船も操業を認められ、漁場を共有してきた。漁獲量の6割は英国以外の漁船によるものとされる。
英国はこれを「自国の海」として取り戻し、各国の漁獲枠の割り当てを求める権利を主張している。これに対しEU側は急激な現状変更の回避を主張し、EU漁船が長期安定的に従来通り操業できるよう求めている。
英政権からすれば、主権回復というEU離脱の象徴的な成果として国民にアピールしたいのだろう。一方で特にフランスは漁業者の生活が脅かされれば、社会的な緊張の高まりにつながりかねず、猛反発している。
公平な競争条件を巡っては、EUは英国に対し、企業への補助金や環境、労働規制などをEUの水準に合わせることを求めている。今後もEUと無関税での通商を望むなら、「いいとこどりは許さない」と譲るつもりはないようだ。
しかし離脱を主導したジョンソン英首相は「主権は奪還した」と主張し、独自の政策を追及する構えだ。英国にしてみれば離脱後もEUのルールに縛られるのであれば、何のために離脱したのか分からなくなる。
ジョンソン首相とEUのフォンデアライエン欧州委員長は何度もトップ会談を重ねたが、隔たりは埋められていない。残された時間は少なく、協定締結には悲観的な見方も出ている。
仮に合意に至っても、双方の議会が批准するには時間がかかる。変更点を企業など現場に徹底させられるかも課題で、当面は混乱が予想される。
英国では新型コロナの変異種が急速に広がり、欧州の多くの国が英国との往来制限に踏み切った。FTA交渉の難航でただでさえ混乱している物流への厳しい打撃となっている。
このまま「協定なき離脱」となれば、コロナ禍に苦しむ英国民の暮らしをさらに追い込みかねない。移行期間や批准手続きを延長するなど、柔軟な対応が双方に求められている。
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