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【食財食人】飼う・買う「やまぐち和牛」 丑年に売り込もゥ〜

2021/1/2 20:33
「さぎりちゃん」と触れ合う荒木農場長(左)と竹田さん。さぎりちゃんはこの後、荒木農場長の顔をべろりとなめた

「さぎりちゃん」と触れ合う荒木農場長(左)と竹田さん。さぎりちゃんはこの後、荒木農場長の顔をべろりとなめた

 ことしのえとは丑(うし)。山口県内でも数々のブランド肉牛が市場で台頭し、オリジナルの乳製品販売に取り組む農家も見られる。近年は固有種の保存や情報通信技術(ICT)を活用した作業の省力化など新たな動きも出始めた。「やまぐち和牛」にまつわる魅力を、飼育や販売に関わる人たちの情熱とともに紹介する。(坂本顕、門脇正樹)

 ▽種の保存 見島牛を分散、大切に育てる

 国内に2種類しかいない在来種の牛の一つが県内にいる。萩市の離島で農耕用に飼育されてきた見島牛だ。島名を冠し、国の天然記念物の指定を受けるほど重宝されてきたが、耕運機の普及に押され一時は絶滅の危機に。文化庁から種の保存に向け分散飼育の要請を受けた市が県内3カ所に計9頭を託している。

 その一つが山口市吉田の山口大農学部付属農場だ。2020年1月、同じく分散飼育する防府市の県立農業大学校で生まれた雌1頭を他の黒毛牛と分けて大切に育てている。愛称は「さぎりちゃん」。トウモロコシが大好物で、この1年で体重190キロに成長した。「人懐こくて優しい性格ですよ」。飼育を担当する技術専門職員の竹田重寿さん(42)が顔をなでると、その場で小刻みに跳ねた。

 「本来は複数頭を同時に育てるのが理想の環境。そのために飼育スペースに余裕を持たせています」と荒木英樹農場長(46)。命のバトンタッチを見据え、じっくり、ゆっくりと歩を進めていく考えだ。

 ▽スマート畜産 AI解析・GPS活用も

 スマート畜産が広がる背景には、深刻な担い手不足の問題が浮かび上がる。県内で肉用牛を育てる農家は422戸で、この10年間で300戸近く減った。労働時間の増加や飼養管理への支障が懸念されている。

 県はこのほど、牛の首輪にセンサーを付け、運動量や反すうの回数などのデータを基に発情や疾病の兆候を人工知能(AI)で解析する実験を試みた。情報はスマートフォンで手軽に確認でき、分娩(ぶんべん)から次の受精までの日数短縮や人工授精の成功率アップなど一定に成果を得た。

 衛星利用測位システム(GPS)で牛の行動エリアを把握し、放牧地から逃げ出すのを防ぐ実験も進めている。耕作放棄地に牛を放して農地の保全と飼養管理を同時に図る県独自の「山口型放牧」にも役立てたい考えだ。県畜産振興課の三宅俊三課長は「作業の省力化とともに生産性を高め、振興につなげたい」と話している。

 ▽スマホで体調管理 岩国ファーム

 岩国市周東町の岩国ファームは昨年8月、繁殖牛の情報を一元管理するスマートフォン用のアプリを業務に取り入れた。1頭ごとに受精日や直近の出産日を確認できる。ICTを活用した「スマート畜産」の便利さに村田頼泰社長(54)は「牛の発情時期が一目で分かる」とご満悦。スマホを手に全48頭の体調をチェックして回った。

 同ファームでは、繁殖牛と肉用牛を合わせ約450頭を飼育している。これに対し、スタッフは村田社長を含め6人。時間、労働力ともかつかつだ。アプリにより、更新した情報は瞬時に全員で共有。ミーティングを開く手間が省け、仕事の効率がぐんと上がった。

 牛の動きや体温の変化で発情の兆候を知らせるセンサーも導入する。村田社長は「担い手不足の業界にとって、スマート畜産はまさに救世主だ」と期待する。

 ▽チーズ 搾りたて牛乳で一家手作り岩国の榎本牧場

 熱湯に浸して柔らかくなったチーズの原料を、榎本富貴子さん(59)が小気味よく延ばす。両手を広げた幅に延ばしては畳み、延ばしては畳み…。あっという間に、ひも状に裂いて食べるストリングチーズが完成した。岩国市錦町宇佐郷の榎本牧場は昨春、搾りたての牛乳でチーズを作り始めた。

 毎日、ジャージーとホルスタイン約40頭から搾る牛乳約1トンの一部をチーズ用に充てる。担当は榎本さんと長男の耕大さん(32)、舞さん(32)夫妻、次男の拓也さん(27)の4人。納屋を改装し抗菌処理した工房で、ストリングやクラッカーに載せて食べるのがお勧めのリコッタなど4種類を作り、同市多田のJA山口県の農産物直売所「FAM’S(ふぁむず)キッチンいわくに」で1個378〜572円で売っている。

 いずれも塩だけのシンプルな味付け。口に含むとまろやかな香りが広がると好評で、品切れになることも。「熱々の湯で手早く練るから、牛乳本来の香りが溶け出さずに残る」と耕大さん。上質の味を食卓へ届けるため「少々のやけどは我慢する」とはにかむ。

 4年前には会社員だった拓也さんが広島からUターンし、一家総出で牧場を経営する榎本さん。牛の飼育を取り仕切る夫の要さん(59)は「みんなのおかげできめ細かい世話ができる」と目を細める。今後はジェラート作りにも挑戦し、山里の新たな名物にしたい考えだ。

 ▽ステーキ バーの看板メニュー、常連客も 岩国

 熱々の鉄板の上で、500グラムのスペシャルステーキが音と香りを立てて躍る。岩国市の米軍岩国基地に近い川下地区のバー「ニュー・ヒルベリー・ヘブン」の看板メニューで、値段は2200円と和牛とは思えない破格の安さ。常連の米兵も「岩国のベストステーキだ」と太鼓判を押す。

 洋酒の瓶が並ぶ店内で店主の永峯守俊さん(80)が肉を焼き始めたのは5年前。客の裾野を広げようと勝負に出た。狙いは的中し、ステーキ目当てで食欲旺盛な若者が訪れるようになった。

 永峯さんお薦めの焼き方はミディアムかミディアムレア。ナイフを入れると、重厚な赤身から肉汁があふれ出す。「多い月は60枚出るよ」。キッチンから顔を出し、得意げに笑った。

 ▽グラタン 牛乳・乳製品コン最優秀賞

 県酪農乳業協会が主催する牛乳・乳製品利用料理コンクール県大会で、2020年度の最優秀賞に大津緑洋高生活科学科2年の浜野彩花さん(17)の「ヘルシー豆腐グラタン」=写真=が選ばれた。「調味料を試行錯誤し、優しい味になるよう工夫しました」と浜野さん。教わったレシピを紹介する。

 ▽統一ブランド シールでPR

 「やまぐち和牛燦(きらめき)」。食肉関連団体でつくる県産和牛ブランド推進協議会は、県産和牛肉に統一ブランド名を付けた。高森牛、阿知須牛と県内にも独自ブランドは数あるが、個別の出荷量が少なく、大量出荷には不向き。このため、4等級以上の上物に「燦」の認定シールを貼ってPRする。松阪牛や神戸牛といった全国の銘柄牛と「肩を並べてきらめくように」。そんな願いが込められている。

この記事の写真

  • 牛の行動データを取るため首輪に装着されたセンサー
  • スマホで1頭1頭の体調を管理する村田社長
  • ストリングチーズを作る富貴子さん(右)と耕大さん(中)、舞さん(撮影・山下悟史)
  • 搾りたての牛乳で作った榎本牧場のチーズ。手前から時計回りにストリング、リコッタ、モッツァレラ、チェリー
  • ボリューム満点のスペシャルステーキを提供する永峯さん
  • ヘルシー豆腐グラタン
  • やまぐち和牛燦

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