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【ヒロシマの空白】黒い雨、解明への道筋は<2>新たな検証 五つの視点、課題は山積 国が検討会

2021/1/2 23:18

 国は昨年11月、黒い雨の降雨域を検証するため、専門家11人による検討会を設けた。初会合で気象シミュレーションなど5項目の作業が示され、今後は公募で選ばれた研究者たちによるワーキンググループへと舞台を移す。課題は山積だ。

 ▽気象の再現、精度疑問/土壌の調査、核実験と判別困難

 「技術の向上で新たな検証ができるのでは」。検討会で国の担当者が筆頭に挙げたのが、原爆投下時の気象をスーパーコンピューターで再現し、降雨域を見るシミュレーションだ。欧州では、過去100年の地球上の気象を再現するデータ整備が進む。そのうち1945年のデータを活用することが念頭にある。

 「趣旨は分かるが、まだ難しいだろう」。2010年からの広島市の調査に関わった筑波大の青山道夫客員教授はそう指摘する。現状ではデータの網目は約125キロ四方。広島県がほぼ収まる粗さで、きのこ雲の動きなどの細かな再現に生かすのは困難だ。

 広島県内の観測記録などを求めようと、過去に米軍の記録を含め調べたが得られなかった。検討会委員からも「シミュレーションだけで結論は出せない」との慎重意見が相次いだ。青山さんは「時間と予算が必要になるが、世界規模ではなく瀬戸内の地形と観測記録を踏まえた再現モデルを構築すれば、被爆後の局地的な現象について分かってくることがあるかもしれない」と話す。

 降雨域の解明には、地上に降った放射性物質の有無や量を調べる土壌調査が重要な意味を持つ。しかし戦後に世界で2千回以上の核実験が実施され、原爆による汚染との判別は難しい。広島大の星正治名誉教授たちは08年以降、原爆投下後から3年ほどの間に建てられた民家の床下を調査した。国が援護を認める地域の外でも、放射性物質を検出した。こうした調査結果の再評価も必要となる。

 人体への影響調査では、広島赤十字・原爆病院(広島市中区)が保管する被爆者約5万人のカルテを分析する。受診時の症状や被爆状況のメモ、外傷や急性症状の有無などの記録だ。

 ただカルテが残るのは、直接や入市での被爆で被爆者健康手帳を持つ人。このうち、黒い雨も浴びたとの記述が残るのは100人に満たない。病理診断科の藤原恵部長は「できることは限られるが、可能な限りの分析は試みる」とする。

 唯一、黒い雨の体験者を直接の対象とする検証作業が、黒い雨に関する国の健康相談事業を利用した人の調査だ。相談時の健康状態の申告内容の分析や、県のがん登録との照合を視野に入れる。かかりつけ医からの情報収集や、病歴の再検証など、いかに網羅的な調査ができるか。国の姿勢が問われる。

 内部被曝(ひばく)を巡る問題について、座長の湘南鎌倉総合病院の佐々木康人・放射線治療研究センター長は「異なる意見があり、どこかで整理したい」と触れるにとどめた。委員からは「放射性微粒子の健康影響、という観点からも検討を」との意見も出ている。

【黒い雨、解明への道筋は】
<1>発生の仕組み きのこ雲から放射性物質降る
<2>新たな検証 五つの視点、課題は山積 国が検討会
<3>体験者の今 心身癒えぬ苦しみ 援護区域拡大へ闘い続く
<4>検討会委員の広島大名誉教授・鎌田医師に聞く

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