コロナ禍と温暖化 環境と経済の両立図れ
見上げた空がきれいになったと感じている人も少なくないのではないか。
国立環境研究所も参加する国際共同研究団体は先月、化石燃料消費による二酸化炭素(CO2)排出量が前年を7%下回る見通しを発表した。新型コロナウイルスの感染拡大で、経済活動が縮小したためだ。
人やモノの動きが世界規模で滞った。工場の操業は一時ストップし、航空機を中心に交通量が大幅に減少している。
皮肉なことだが、コロナ禍を機に大気汚染が一時的にせよ改善された。地球温暖化の元凶とされるCO2など温室効果ガスの排出量も減った。
自然環境の大切さをあらためて実感する機会になったのではないか。私たちの健康と安全な生活にとって、欠くことができないものだからだ。
しかし大気中のCO2濃度は依然として過去最悪の高い水準にある。CO2の排出量が少しばかり減ったからといって、温暖化に歯止めがかけられるわけではない。コロナ禍が収束すれば、リバウンドも懸念されている。
温暖化は人類共通の危機だ。熱波や干ばつ、豪雨が頻発している。激甚化した自然災害は人々の命を奪い、住まいを追われた人々が難民となっている。地球と人類の持続可能性が問われる事態は、もはや「気候危機」と言うほかない。
コロナ禍をどう克服していくかは喫緊の課題だが、それによって地球環境問題への取り組みが後回しにされることがあってはならない。「環境か、経済か」という単純な二項対立から発想を転換し、手遅れになる前に行動する必要がある。
注目したいのは、コロナ禍を変革実現の好機と捉え、環境に配慮しながら経済再生を目指す動きが広がっていることだ。「グリーン・リカバリー(緑の復興)」と呼ばれている。
コロナ禍で傷んだ経済を取り戻すだけでなく、脱炭素化など気候変動への取り組みと連動させて投資を拡大し、新たな雇用や市場の創出につなげていく。持続可能な脱炭素社会への転換と経済復興の両立を狙う考え方は新鮮で、説得力もある。
気候危機を回避するには、産業革命以降の気温上昇を1・5度以下に抑える必要がある。そのためには今世紀半ばまでにCO2の排出量を実質ゼロにすることが必須だ。
昨年、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」が本格始動した。200カ国近くが参加する協定は先進国、途上国の区別なく「1・5度以下」を実現する努力を求めている。
既に120カ国以上が50年までにCO2排出量を実質ゼロにする目標を掲げ、日本も遅ればせながら昨年10月に宣言。新型コロナの感染拡大は、世界が脱炭素化の流れを加速させようとしているタイミングと重なった。
欧州連合(EU)は、既に総額7500億ユーロ(約95兆円)の基金の創設を決め、緑の復興へ一歩を踏み出している。米国も、今月発足するバイデン政権がパリ協定への復帰を表明しており、再び脱炭素化へ動きだすことになる。
長期的な視点に立って、感染症の世界的大流行が起こりにくく、気候危機も回避できるよう、社会・経済システムの変革を探る必要がある。
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