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35歳という節目もある

2021/1/3 6:41

 文学賞に名を残す作家の直木三十五(さんじゅうご)は筆名で、年ごとに変えた。文筆を飯の種にした31歳の時、直木三十一を名乗った。明くる年は直木三十二。「三十六計逃げるにしかず」とちゃかされぬよう打ち止めにしたという説もある▲どうも35歳の頃、文壇での地歩を固めたからというのが通り相場らしい。今に至る本格派の歴史・時代小説に道を開き、満43歳の若さで生涯を閉じた。その名が冠された直木賞は今年、創設86年を数える。本望だろう▲35歳は、学問の世界でも大事な節目だと見なされているらしい。唱えるのは、おととしのノーベル化学賞を受賞した吉野彰さん。広島大の広報誌「HU―plus(プラス)」新年号に載っている▲ノーベル賞をもたらした数々の研究はいつ着手されたのか―。調べると、平均36・8歳だという。吉野さんがリチウムイオン電池を手掛けたのは33歳、「吉野三十三」の時である。失敗もチャンスに転じるだけの場数を踏んだ年頃でもあるのだろう▲賞など無縁で、節目の年もとっくに過ぎたわが身なれど、何のその。直木が生きた時代に比べて平均寿命は倍近く、80歳を超す。経験を積み、知識を深め、人生を楽しむ時間はたっぷりある。

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