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「不死身の脇役」旅立つ

2021/1/6 6:43

 大正の終わりに「雄呂血(おろち)」という無声映画が世に出た。当時のスター阪東妻三郎が終幕までの20分、敵をバッタバッタとなぎ倒す剣劇。歌舞伎役者が新境地に挑んだ傑作である▲製作総指揮は伝説の映画人、マキノ省三。激動の世相に、独特の哲学を持っていた。高名な作家との対談では「あんた等(ら)から見たらしょむないチャンバラだっしゃろが、現代人の憂鬱(ゆううつ)の解毒剤になったらと思うてまんな」と明かしている。省三を主人公に据えた小説「オイッチニーのサン」(高野澄(きよし)著)から▲バンツマあるいはミフネ、錦之介がいれば、当然、斬られ役がいる。半世紀に及ぶ「不死身の脇役」福本清三さんが旅立った▲15歳で京都の撮影所に住み込む。「おまえら」としか呼ばれない大部屋俳優。スタントマン代わりにも使われた。だが面白いことに「失敗談というのはありません」と、ある取材に答えている。いつも命懸けだと現場は知っていて、ぶざまな撮り直しを誰も笑わなかったという▲晩年の福本さんには自ら苦笑した話も。出番だと思い現場で立ち上がると「休んでいて」と声が掛かった。監督に気を使わせる大部屋は情けない、と。脇役の重みを知る年明けである。

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