首都圏に再び緊急宣言 危機感共有できるのか
遅れ遅れになっていた「切り札」を出すからには、巨大な第3波の抑え込みに全力を挙げなければならない。新型コロナ特別措置法に基づき、政府はきのう、首都圏の1都3県を対象に緊急事態宣言を再び発令した。
ただ、経済への打撃を気にするあまり、昨年春の初の宣言時とは違い、飲食店などに対象業種を絞り込んだ。効果がどれほどあるのだろうか。
感染拡大は、再発令の方針が示された4日以降も勢いを増している。全国の新規感染者数はきのう7千人台に乗り、わずか2週間で倍以上になった。
感染爆発を避けるには、これまで以上に強い措置が急がれる。人と人との接触を大幅に減らすことが必要―。そう専門家が指摘する通りである。
ところが、政府の対応は心もとない。例えば対象地域の狭さ。医療崩壊の危機にあるのは首都圏だけではない。医療が逼迫(ひっぱく)しつつある大阪府などへの宣言も検討すべきではないか。
期間を1カ月にした点にも疑問の声が上がる。「8割おじさん」で知られた西浦博・京都大教授(感染症疫学)は、昨春の宣言時並みの厳しい対策でも東京の感染者抑え込みには約2カ月必要だと試算した。飲食店の時短営業などを中心にした今の対策では、新規感染者数はほぼ横ばいで高止まりするという。
政府方針には、新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長も厳しい見方を示す。「飲食店だけでは感染を下火にできない」「1カ月未満で抑え込むのは至難の業だ」という。小出しで不十分な対策では抑え込みは不可能だろう。迅速な判断と徹底した取り組みが求められる。
長く続く対策に国民の協力を得るため、危機感を改めて共有してもらう必要がある。自粛疲れや自粛慣れで気が緩んでいるようにも見えるからだ。
しかし肝心の政府は危機感が乏しい。何より、先頭に立つべき菅義偉首相に覚悟が感じられない。国民の代表が集う国会で、宣言の必要性について説明し、質疑を受けたのは、西村康稔経済再生担当相だった。一体誰が、国のリーダーなのか。
菅首相はきのうの会見で「1カ月後には必ず事態を改善させる。あらゆる方策を講じる」と述べた。手元の資料を度々見ながらで、迫力を欠いた。どれほど国民の心に届いただろう。
危機感を欠くのは国会議員も同じだ。会食ルールを設けるが、4人以下で、午後8時以降は控える程度という。自分たちへの甘さに驚く。食事をせずとも国民の意見は聞ける。なぜ自粛まで踏み込まなかったのか。
宣言を出すことで、立場の弱い人たちにしわ寄せが及ぶ事態を繰り返してはいけない。コロナ関連の解雇や雇い止めは8万人を超えた。半数近くがアルバイトやパートなど非正規労働者だという。女性が目立ち、自殺も増えている。政府には、国民の生命や健康だけではなく、雇用を守る責任もある。
中国地方に住む私たちも油断はできない。広島県では、厳しい集中対策で新規感染者数は先月中下旬をピークに減少傾向にある。それでも首都圏での感染拡大を食い止めなければ、再燃の恐れが残る。危機を乗り切るには、一人一人の自覚が前提になることを、再発令を機に改めて肝に銘じておきたい。
あなたにおすすめの記事
社説の最新記事
- 孔子廟用地提供は違憲 政教分離に現実的な判断 (2021/2/26)
- 接待問題の官僚処分 解明なき幕引き許せぬ (2021/2/25)
- 生活保護費判決 算定基準の見直し急げ (2021/2/24)
- 銀行の認知症対応 実情即した配慮必要だ (2021/2/23)
- 原発事故「国にも責任」 高裁判決の重さ自覚を (2021/2/22)