コラム・連載・特集

ヤスキハガネの行方

2021/1/11 6:00

 8世紀の出雲風土記、飯石郡の条に「鉄(まがね)あり」とある。仁多郡の条にはもろもろの郷から出す鉄が「堅くして尤(もっと)も雑具を造るに堪(た)ふ」ともある。雑具は「くさぐさのもの」と読む▲古代日本有数の「鉄の国」だと分かる。地元の歴史学者藤岡大拙さんは「箱庭の出雲は十分すぎるほど豊かであった」と著書で述べている。豊かであるため交易の必要がない閉鎖社会で、古来の言葉も残った。今に続く砂鉄の製錬―たたらの現場もきっと出雲弁がしっくり来よう▲その悠久の歴史に変事が訪れはしないか。安来市に主力工場を置く日立金属に、合理化や「身売り」の火花が散って▲たたらによる玉鋼(たまはがね)は日本刀に鍛える。その技は日立金属の特殊鋼ヤスキハガネにも受け継がれて久しい。敗戦で軍刀は無用の長物になったが、技は平和裏に生かされた。戦後、安来に旧和鋼記念館を開いたのも日立金属。学生時代に大きな〓(けら)=鉄塊=を見学して驚いた記憶がある▲事態を憂えた島根県は経産省に要望してやまない。雇用の問題だが、心のよりどころの問題でもあろう。くさぐさのものは今、H2Aロケットが衛星を切り離すカッターでもある。出雲風土記の編者が知ったら驚く。

 【お断り】〓は「かねへん」に母を書きますが、JISコードにないため表示できません。

  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

 あなたにおすすめの記事

天風録の最新記事
一覧