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デジタル庁の基本方針 格差生まぬよう配慮を

2021/1/11 6:00

 政府は、菅義偉首相の看板政策であるデジタル社会の実現に向け、改革の基本方針を閣議決定した。

 司令塔となるデジタル庁を9月1日に創設。今はばらばらの国と地方の情報システムの共通化や、行政サービスの質向上、データ活用環境の整備などを図る。行政手続きのデジタル化につなげるため、マイナンバーカードの普及も進めるという。

 国民生活が今より便利になり行政の効率化も進む。そんな期待もある。ただ実現には、情報の漏えいと悪用の防止や、専門性の高い民間人材の確保など課題が山積している。何より国民の信頼を得ることが前提でなければならない。マイナンバーカードの普及率が23%程度にとどまるなど、デジタル化への疑問や不信が根強い現状をまずは変える必要があろう。

 政府がデジタル化を急ぐのは先進国の中で後れを取っているからだ。2000年に「世界最先端のIT国家」を目指して基本戦略を策定するなど、取り組みを進めてきた。しかし他国はさらにアクセルを踏んでいた。国連の調べによると、行政のデジタル化で日本は18年の10位から20年には14位まで後退した。

 その遅れが新型コロナウイルスの感染拡大で露呈した。例えば各種の給付金。オンライン申請でシステムの不具合が相次ぐなど、迅速な支給ができないといった不手際が生じた。着せられた「デジタル敗戦」の汚名は返上に努めなければならない。

 政府の方針では、デジタル庁は500人規模とし、うち100人を民間から登用する。ただITに精通した優秀な人材は官民とも不足。魅力的な待遇を示せなければ確保は難しかろう。

 デジタル庁には、各省庁のシステム予算を集約させていく。首相をトップに据え、他省庁への是正勧告権など強い権限を持たせるが、カネも力も奪われる省庁の抵抗も予想される。菅首相の言葉通り「縦割り打破」ができるか、試金石と言えよう。

 情報システムが複数の省庁や市町村で違うことは、それ自体深刻な問題だ。しかも、それに伴い個人情報の保護法制も省庁や自治体の数ほど違っている。「2千個問題」と呼ばれ、データ流通の阻害要因となっている。解決が急がれる。

 行政の情報システムの一体化が進んで個人情報が一元化されると、流出するリスクも高まる。政府による監視社会の到来を危惧する人もいよう。世界を見回すと、強権的な国では既に現実問題になっている。杞憂(きゆう)だとは言い切れまい。こうした個人情報の漏えいや悪用をどう防ぐか。政府は早急な対策の具体化を進めなければならない。

 サイバー攻撃への備えも必要だ。「デジタル先進国」の北欧エストニアでは以前、ロシアからとみられる攻撃を受けた。政府や銀行のシステムに障害が起き、国民生活にも影響が出たという。民間企業や大学の協力を得ながら、政府の責任で防止策を練り上げる必要がある。

 「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を進める―。基本方針が掲げる目標である。インターネットを使いこなせない高齢者をはじめ「弱者」の存在を忘れてはならない。年齢や地域などで格差が生じないよう、十分に配慮した取り組みが政府には求められる。

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