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香港一斉逮捕 民主派つぶしの暴挙だ

2021/1/12 6:38

 異論や異議を一切許さないというのだろうか。香港政府と、その後ろ盾の中国政府による露骨過ぎる民主派つぶしの暴挙であり、看過できない。

 香港警察は6日、立法会(議会)の元議員ら民主派53人を一斉に逮捕した。香港国家安全維持法に違反した容疑という。

 昨年9月に予定されていた立法会選挙に向けて、民主派が7月に実施した予備選に絡み、国安法の「国家政権転覆罪」の疑いが持たれている。同罪の適用は昨年6月末の国安法施行後初めてとみられる。

 逮捕されたのは、予備選に参加したほぼ全員とされる。民主派最大政党の前代表、胡志偉氏ら政治家に加え、予備選を取り仕切った香港大元准教授の戴耀廷氏らが含まれる。かつてない規模の摘発となった。

 予備選は当選者を増やすため、候補者を絞り込む目的で実施された。民主派で議会の過半数の議席を取って予算案を否決し、行政長官を辞任に追い込む目標を掲げていた。それが問題視されたようだ。

 香港警察は、一斉逮捕について「予算案は否決してもいいが、目標が政権転覆であってはならない」と説明している。

 民主的な選挙に向けた準備が、なぜ「国家転覆のたくらみ」に当たるのか、到底理解できない。選挙で過半数を目指すことが犯罪に当たるのなら、民主主義は成り立たない。

 中国返還に当たって約束された「一国二制度」の下での香港の自治や自由が、もはや風前のともしびになっていると言わざるを得ない。

 昨年6月、中国の習近平指導部が香港の頭越しに国安法を施行して以降、民主派への強硬姿勢は目に見えて厳しさを増している。

 昨年末までの半年間で同法違反容疑で40人が逮捕された。中国に批判的な香港紙「リンゴ日報」などの創業者である黎智英氏や、著名な民主活動家の周庭氏らも含まれている。

 昨年11月には、立法会議員に「忠誠」などの資格要件が新設され、民主派4人の議員資格が一方的に剥奪された。そして今回、元議員らの大量摘発にまで踏み込んだ。

 予備選には予想を上回る約61万人が投票し、民主派に対する市民の根強い支持が示された。民主派の躍進を警戒したのか、香港政府はコロナ禍を理由に立法会選挙を1年間延期した。

 その選挙が今年9月に控えており、民主派を今のうちに徹底的に押さえつけておきたかったのだろう。

 さらに見過ごせないのは予備選で実務を担った米国人弁護士も逮捕者に含まれていたことだ。この問題が決して香港の人たちだけのものではなく、日本人も含め国内外を問わず自由や人権が脅かされる恐れがある。

 今回の一斉逮捕は、米大統領選後の政権交代を巡って混乱する米国の隙を突いたようにもみえる。バイデン次期大統領は人権問題に厳しいとされる。米国の干渉を最小限に食い止めようと、弾圧を強めている可能性も否定できない。

 民主主義という価値観を同じくする日本と欧州も足並みをそろえることが欠かせない。中国政府に香港の自治を尊重するよう、粘り強く働きかける責任がある。

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