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睡眠導入剤混入 命預かる責任、自覚せよ

2021/1/13 6:40

 睡眠導入剤成分を混入させた福井県の製薬会社「小林化工」による爪水虫などの治療薬で、これまでに207人に意識消失や記憶喪失、ろれつが回らなくなるなどの健康被害が認められている。処方された患者の6割超に及ぶという。

 死者を2人出した。ほかに服用後の患者が運転中に事故を起こしたケースも20件を超えている。極めて重大な事案である。

 同社によると、混入は原料の容器の取り違えが原因という。2人一組での確認も怠っていた上、出荷前の品質検査で異物混入を示すデータを検出していながら見過ごした。

 人命にかかわる薬を製造する会社として、あってはならないことだ。なぜこのような事態を引き起こしたのか。厚生労働省や県は徹底調査、解明した上で厳しく処分してもらいたい。

 同社は重大な過失を認め、この治療薬を自主回収している。さらに別の16製品も自主回収している。全製品を確認したところ、出荷前の試験での検証が不十分な製品が判明したという。抗ウイルス化学療法剤や抗てんかん剤などが含まれる。

 さまざまな病気や症状に苦しむ人に処方される薬剤である。異物混入やずさんな検査は患者を裏切る行為と言わざるを得ない。製薬会社としてのモラルや責任が厳しく問われる。

 混入が判明したのは、爪水虫など皮膚病の治療に使うイトラコナゾール錠50「MEEK」約10万錠分である。広島県内の薬局など6施設にも流通し、患者1人が服用していた。

 同社の担当者が正しい成分と睡眠導入剤成分の容器を取り違えて混入させたのは、製造過程で目減りした原料を追加する際だったことが判明した。この追加作業は厚労省の承認を得ていない工程である。

 これまで福井県が行う定期調査に同社は、承認された工程の手順書のみを示していたという。しかし実際には、それとは異なる手順書を作成していたとみられる。承認されていない工程の手順書を作り、薬を製造していたとすれば、非常に悪質だ。

 異なる手順書は誰がいつ、何のために作成したのか、会社ぐるみなのかなどを追及し、明らかにしなければならない。

 先月、厚労省や県は同社に立ち入り調査を実施した。県は医薬品医療機器法に基づき、全289製品の生産管理体制を20日までに報告するよう命じており年度内の早い時期に行政処分する考え。長期の業務停止命令という行政処分が妥当との見解を厚労省は示した。当然である。

 これまで県は通常の立ち入り調査を、会社側に日程を事前に連絡した上で行ってきたという。今後は調査方法を見直して、抜き打ち検査などによって違反を見抜いていく必要もあるのではないか。

 新型コロナウイルスの感染拡大によってワクチンや治療薬の開発が期待されている。しかし今回のような問題で薬剤への国民の不信感が強まれば、ワクチン接種をためらう人が増えかねない。製薬会社や薬剤の治験や承認に対し、国は厳しい姿勢で臨んでもらいたい。

 製薬業界も重く受けとめねばならない。医薬品を扱う責任と使命をいま一度確認し、信頼と安心を回復させることが求められる。

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