元農相在宅起訴 癒着の実態、徹底解明を
自民党の衆院議員だった吉川貴盛元農相が、東京地検特捜部によって在宅起訴された。問われた罪は収賄で、大臣在任中の2018年11月から翌年8月にかけ、福山市の鶏卵生産大手「アキタフーズ」グループの秋田善祺(よしき)元代表から現金計500万円を受領したとされる。
閣僚として権限を握る業界の関係者から金銭を受け取るなど、まかりならぬことは政治家のイロハだろう。なれ合いのあまりなのか、一部は大臣室で受け渡されたと起訴状にある。
政財界が、時計の針を巻き戻すような癒着を深めていた疑いが強まった。それを許した温床の実態も含め、徹底して解明すべきである。
元代表は、贈賄の罪で同じく在宅起訴された。両者とも、カネの受け渡しは認めた上で賄賂であることについては否認しているという。元代表に至っては本紙の取材に対し、「いわば相撲のタニマチのような気持ちだった」と答えている。
角界や球界で賭博事件など不祥事のたび、力士や選手をちやほやする「タニマチ」は、まひした金銭感覚や「黒い交際」の温床として問題視されてきた。にもかかわらず、それを自負するとは、社会通念とのずれを疑わざるを得ない。
多額のカネの見返りとして、家畜のストレスを軽減する飼育法「アニマルウェルフェア」の国際基準案を巡り、吉川被告が業界に便宜を図った―。そんな見立ても、特捜部にはあるようだ。「死活問題」と秋田被告が懸念を強めていたからだ。
500万円とは別口で、吉川被告は合計1300万円に上るカネを秋田被告から受け取ったとされる。その分の立件が見送られたのは、農相在任期間でないなど職務権限が伴わなかったと判断されたにすぎない。
それでも、政治資金収支報告書に記載のない「裏金」にほかなるまい。なぜ政治資金規正法違反には問わないのだろう。
「養鶏業に理解のある有能な政治家を育てたいと思った」。不透明なカネの趣旨を問う本紙取材に、そう釈明した秋田被告は「養鶏農家を守るためでもあるが、消費者を守るためでもある」とも述べている。さて、どれほどの消費者が額面通りに受け取っただろうか。
国民の政治不信を募らせ、農林水産行政に対する信頼を傷つけた責任は重い。
自民、公明の両党は、吉川被告の辞職に伴う衆院補選で与党候補の擁立見送りに追い込まれた。菅義偉首相は「深く反省し、有権者の信頼回復を優先する」ためだとする。
ならば、まずは当事者が事件について洗いざらい語るべきだろう。吉川被告はまだ、多くを語っていない。
秋田被告が「タニマチ」を務めた相手として、農相経験者で元内閣官房参与の西川公也氏も既に知られている。その親密ぶりは、農林族議員の中でも際立っていた。参与時代に数百万円を受け取った疑惑があり、晴れてはいない。説明責任を果たす必要がある。
あす開会の国会でも、真相の究明が待たれる。
「安い物には訳がある」という買い物の戒めがある。低価格が長年続く卵も、そうなのか。事件の全容解明は、消費者としても決して人ごとでない。
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