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東京五輪 中止も想定すべきでは

2021/1/18 6:46

 今年夏まで開催を1年遅らせた東京五輪・パラリンピックに再び暗雲が垂れ込めている。新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからないためだ。

 国内の感染者が累計で30万人を超え、政府は特別措置法に基づく緊急事態宣言を11都府県に再発令せざるを得なくなった。

 それでも、菅義偉首相は開催に固執する。「人類が新型コロナに打ち勝った証しとして、実現するとの決意の下、準備を進める」と年頭会見でも述べた。大会組織委員会の森喜朗委員長も「あくまで進めていく」と強気の姿勢を崩していない。

 ただ世界では、そんな楽観的な考えとは正反対の意見が広まりつつある。「今夏の開催見通しが日々厳しさを増し、第2次大戦後では初の中止に追い込まれる可能性がある」。米国の有力紙ニューヨーク・タイムズや、ブルームバーグ通信は先週末、そう伝えた。

 中止になれば、自国開催を励みにしている国内のアスリートや関係者を失望させるだろう。世界トップの力と技を間近で見たいと心待ちにするスポーツ愛好者も信じたくはあるまい。

 しかし安全な開催は不可能だとの声が、国際オリンピック委員会(IOC)の中でさえ、出始めている。例えば最古参のIOC委員、カナダのディック・パウンド氏は「開催に確信が持てない」と述べたという。

 感染急拡大は世界でも昨年秋以降、欧米を中心に深刻になっているからだ。感染者は9500万人に迫り、昨年9月の3倍に。日本では2月下旬の開始を目指すワクチン接種を始めた国もあるが、感染の収まる見通しは立っていない。これでは半年後とはいえ、安全な開催を確信できないのも無理はなかろう。

 「3密」を避けられない競技や合宿など、スポーツには感染リスクが伴う。実際に今月、相撲界では力士たちが共同生活する部屋で集団感染が発生した。水球では、日本代表候補合宿に参加していた選手が陽性と判定され、合宿は中止となった。

 コロナ禍は、五輪に対する国民の期待もしぼませている。今月上旬の全国世論調査では「中止すべきだ」と「再延期すべきだ」が合わせて8割を超えた。

 再延期すべきだとの私見を表明したメダリストもいる。ボートで「金」を4個得た英国のマシュー・ピンセント氏は「順番変更を求め、2024年まで延期すべきだ」という。開催を4年ずつずらし、パリを28年、ロサンゼルスは32年とする案だ。調整は簡単ではなかろうが、検討に値するのではないか。

 ここに来て日本政府からも懐疑的な意見が出てきた。河野太郎行政改革担当相である。「最善を尽くす必要があるが、どちらに転ぶかは分からない」とロイター通信の取材に答えた。日本の閣僚が五輪中止の可能性に言及したとして、フランス紙などでも報じられた。

 3月にはテスト大会や聖火リレーが予定されている。五輪の中止も含め、政府はあらゆる可能性を想定して対応策の検討を急ぐべきである。開催にこだわるなら、感染者をいつまでにどれだけ減らすか。目標や達成状況を明らかにしながら、国民の理解を得る必要がある。データや具体的根拠も示さず、開催の決意ばかり語っても、冷めかけた国民の心に火はつくまい。 

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