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首相の施政方針演説 国民に言葉が響いたか

2021/1/19 6:47

 通常国会がきのう開会した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が再発令される中での論戦が始まった。

 焦点は、そのコロナ禍への政府の対応だ。菅義偉首相は施政方針演説で、「この闘いの最前線に立ち、難局を乗り越えていく」と表明した。国民の命と健康を守り抜くと強調する一方で、これまで感染防止との両立を掲げていた「経済重視」の文言は使わなかった。

 首相は昨年10月の所信表明演説で「爆発的な感染は絶対に防ぐ」と言明した。しかし観光支援事業「Go To トラベル」などを続け、わずか3カ月足らずで宣言の再発令を余儀なくされた。

 後手に回った政府の対応に向けられる国民の厳しい目を意識しているのだろう。国民生活に再び制約を強いることに「大変申し訳ない」と述べた。

 だが、これまでの感染防止対策が適切だったのかどうかについて検証や反省の弁はなかった。演説からは現状認識の甘さと責任回避の姿勢が浮かぶ。

 緊急宣言の解除についても「『ステージ4』(爆発的感染拡大)を早急に脱却する」と強調しただけだ。政府が解除の目安とする「ステージ3」は「感染急増」の状態だ。具体的な基準や方針を示さないと、危機感や切迫感は伝わらないだろう。響く言葉がなければ、国民との信頼関係を築くことは難しい。

 政府が早期成立を目指す新型コロナ特別措置法と感染症法の改定案にも懸念がつきまとう。首相はきのう「議論を急ぎ、早期に国会に提出する」と述べたが、その内容については慎重な検討が欠かせない。

 いずれも感染対策に協力しない国民や事業者、医療機関などに罰則を科す内容である。「無策を棚に上げて、法律に強制力がないから改正するというのは極めておかしい」と野党が反発するのも理解できる。

 感染拡大を止められない状況に焦っているのではないか。問題は、政府が感染対策について国民の理解と協力を得るための努力を怠ってきたことにある。私権の制限につながる罰則を設ければ、かえって反発を招くのは目に見えている。国会では丁寧な議論が求められる。

 首相は「長年の課題について、この4カ月で答えを出してきた」と強調し、経済成長の原動力として挙げた脱炭素社会の実現やデジタル化推進に意欲を示した。秋までに行われる衆院選をにらみ、成果をアピールしたい本音が透ける。

 一方で「政治とカネ」の問題については多くを語らず、踏み込み不足が目立った。安倍晋三前首相の元公設秘書が罰金刑を受けた「桜を見る会」前日の夕食会の費用補填(ほてん)問題を巡り、官房長官当時の自身の国会答弁が事実と異なっていた点だけを謝罪した。

 だが、首相に近いとされる元法相の河井克行被告と妻の参院議員案里被告の選挙買収事件や、在宅起訴された吉川貴盛元農相の贈収賄事件など一連の事件には触れなかった。

 首相は「国政をあずかる政治家にとって、何よりも国民の信頼が不可欠である」と述べた。そう言い切るなら、政治の信頼回復に向けた取り組みや防止策を示し、実現に向けてリーダーシップを発揮すべきだ。 

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