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鍋を囲む

2021/1/21 6:45

 冷え込んだ日は、鍋に限る。目下のお気に入りは、手間の要らぬ「常夜(じょうや)鍋」である。豚肉の薄切りに旬のホウレンソウを日本酒で煮て、うま味を引き出す。毎晩でも飽きぬところが命名の由来らしい。ただしアルコール分をしっかり飛ばさないと酔っぱらう▲寄せ鍋、すき焼き、かきの土手鍋とそれぞれに合う酒がある。味わう温度で名前も変わる。日向燗(ひなたかん)に人肌燗、熱燗…。鍋を囲み、つつき合える日が、いつになったら戻ってくるのだろう▲日本酒や焼酎のユネスコ無形文化遺産登録を政府が目指している。輸出額アップを当て込んでのことだとも聞くが、見え見えの下心はいただけない。フランスの美食術も登録後、PRが過熱したあまり「行き過ぎた商業化」と警告を受けている▲日本酒はワインと同様、原料や造り方がほぼ同じでも醸す土地の個性が出る。醸造技術の良しあしに限らず、冠婚葬祭や農の文化も味と香りの裾野を成しているのだろう。「酒は、関係を紡ぐもの」。広島杜氏(とうじ)組合長の石川達也さんはそう表現する▲飲むほどに、自然の幸や人とのつながりを深めてくれる―。遺産登録への動きが、お酒のそんな価値も見直す出発点になるといい。

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